研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
22121513
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高木 淳一 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (90212000)
|
キーワード | 過渡的複合体 / シナプス / ニューレキシン / ニューロリギン / X線結晶構造解析 / 電子顕微鏡イメージング / クライオ電子顕微鏡 |
研究概要 |
神経シナプスは安定な構造ではなく、多くの膜蛋白質と会合分子がダイナミックに入れ替わり、常に変化する存在である。本研究は、「シナプス間を連結する接着分子複合体が、きわめて弱い相互作用によってラテラルに集合離散することが、シナプスのダイナミックな構造と機能を結びつける鍵である」という仮説について、この準安定複合体の可視化と解析を通して検証するものである。具体的には、シナプス前膜に発現するニューレキシン(Nrx)と、シナプス後膜に発現するニューロリギン(NL)を対象に、膜上に存在するNrxやNLによって過渡的複合体が形成する様子をX線結晶構造解析、電子顕微鏡イメージング、および光学顕微鏡といったマルチな手法で観察した。昨年度までに、蛍光-電子線相関顕微観察法(Correlation Light-Electron Microscopy; CLEM)によってNLとNrx1βの作る細胞間接着構造をイメージングに成功していたが、今年度はまず、Nrx1βと異なりN末端に大きなエキストラ領域を含むNrxhの構造を、部分断片を用いたX線結晶構造解析によって解明し、報告した。また、細胞間接着構造がNrx1β-NL間に形成される密で規則的な二次元構造体に依存することを証明するため、相互作用を阻害する変異体をデザインし、それらを発現する細胞株もすべて樹立して、接着部位のイメージングを行った。その結果は規則的な二次構造の重要性を支持するものであった。現在これらすべてをまとめた論文を投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、精製蛋白質を用いたX線結晶構造解析から、細胞を用いた光学および電子顕微鏡イメージングまで多岐にわたる手法を駆使するため、一つ一つ予想外の時間がかかる。そのため、研究自体は当初の計画より若干遅れ気味に進行している。しかしながら、単なる受容体の構造解析という次元を超えて、神経シナプスの構築原理、さらには細胞接着構造のin situイメージングという極めて根源的な科学的新知見に結びつく研究になりつつある点で予想以上の成果をあげつつある。よって総合的に見て、「おおむね順調に進展した」と判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の内容は現在Cell Reports誌においてリバイス段階に来ており、レフェリーの好意的なコメントと、疑問に答えうる追加実験に成功していることから、今年度前半にはpublishできるものと考える。また、本研究課題の成果に触発されたあらたな研究テーマも開始しており、2年間の研究で十分な波及効果が上げられたとかんがえている。
|