研究領域 | 出ユーラシアの統合的人類史学:文明創出メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
22H04445
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大橋 順 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80301141)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ラピタ人 / 地域特異的適応変異 / オセアニア / 移住 |
研究実績の概要 |
台湾を起源とするオーストロネシア語族集団(ラピタ人)は、およそ3500年前にパプアニューギニアのビスマルク諸島に現れ、またたく間にリモートオセアニアに拡散した。本研究は、ラピタ人の子孫であるオーストロネシア語族集団の全ゲノム配列解析と集団ゲノム学的解析を行い、出ユーラシアを経てリモートオセアニアへ到達したラピタ人の移住・混血・集団サイズ変化の過程を明らかにすることを目的とする。 我々の先行研究において(Naka et al., 2013)、オセアニア島嶼民の肥満と関連するADRB2ハプロタイプが、ネアンデルタールに由来することが明らかとなった。そこで、今年度は、オーストロネシア人への旧人からの遺伝子移入の影響を調べるため、トンガ人16名の全ゲノム配列決定を行い、旧人からの遺伝子移入がどの程度あったのかを調べた。その結果、ネアンデルタールからの遺伝子移入は、デニソワからの遺伝子移入よりもはるかに多く散見された。また、他のアジア人集団における旧人からの遺伝子移入量と比較したところ、トンガ人との大きな差はみられなかった。このことから、トンガ人の祖先と旧人との交雑は、トンガ人の祖先がアジア人集団と分岐する以前に起きたことが示唆された。 ラピタ人がオセアニアに移住する過程で、正の自然選択が作用した形質を調べるため、トンガ人の全ゲノムデータをもとに肥満関連変異の頻度変化を調べた。その結果、リモートオセアニアに移住する時期と重なって、それらの変異の頻度が上昇した可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DNA試料の質が悪いため、正確なDNA試料の調整ができていないことが判明し、血液試料からのDNA試料の抽出をやり直す必要が生じたため。
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今後の研究の推進方策 |
Serviceら(2012)の報告では、4つの独立コホート(YFS, NFBC, HBCS, QIMR)のGWAS結果にメタ解析を行い、6つの新奇性追求関連変異を見出している。各コホートの各関連変異について、1KGプロジェクトのアフリカ人集団(AFR)と東アジア人集団(EAS)に対して2*Beta*freqを計算し(Betaは効果量、freqは集団内頻度)、コホートごとに6個の変異の合計値を算出した。ここで、2*Beta*freqが大きいほど、新奇性追求心の強い集団と言える。その結果、2*Beta*freqの合計値はコホートごとに異なるが、4つのコホート全てにおいて(推定したBetaの大きさはは異なるものの)、一貫して東アジア集団(EAS)の方がアフリカ人集団(YRI)よりも合計値が大きく、より新奇性追求心の強い集団であることが示唆された。今年度は、「オーストロネシア語族集団は東アジア人集団よりも新奇性追求が強く、さらに遠方に進出した集団ほど強い」という仮説の検証を行うべく、オーストロネシア語族集団が、東アジア人集団よりもさらに大きな値を示すかどうか、移住の過程でその変異頻度は増加したのか(2*Beta*freqが大きくなったのか)を検討する。
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