研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04458
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井原 慶彦 北海道大学, 理学研究院, 講師 (80598491)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カゴメ遍歴磁性体 / 強磁場物性 / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
結晶構造にカゴメネットワークを持つ磁性体は、幾何学的フラストレーションの効果により低温まで磁気秩序を起こすことが出来ず、量子力学的な揺らぎに起因する液体状態が実現することが期待されている。さらに電子が遍歴性を持つ場合はより顕著な量子揺らぎ効果により、電子は低温まで対称性の低下を起こさず量子液体状態が安定化する。本研究ではカゴメ遍歴磁性体を対象に、主として微視的測定手段であるNMR測定を行うことでこのような量子液体状態実現の可能性を探求した。特に、Mnがカゴメネットワークを形成するMnカゴメ磁性体に着目し、2022年度は低磁場基底状態を明らかにするために定常低磁場でのNMR測定を行った。 NMR測定は局所的な対称性の低下を敏感に検出できる測定プローブであり、微弱な磁気秩序の検出に適している。しかし、本研究で着目したMn系カゴメ磁性体では、最低温度まで明確な磁気秩序は観測されず、量子液体状態実現が示唆される結果を得た。一方で伝導特性には変化がみられており、特異な量子状態が実現していると考えられる。次年度の研究により低温で実現している量子状態をミクロな視点から解明していく。 本研究の最終目的は、対称性低下を起こさない量子体状態に対し、巨大な磁場を印加することで強制的に対称性低下を引き起こし、この時実現することが期待される量子液晶状態を観測することである。次年度の研究では、パルス強磁場を用いた強磁場物性測定に焦点を当て、磁場誘起量子液晶状態の研究を推進する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の1年目となる2022年度は、低磁場低温において実現する量子液体状態の微視的観測を目標としていた。実際、研究計画に則って測定対象に選択したMn系カゴメ遍歴磁性体の純良単結晶試料に対して詳細なNMR測定を行い、有限の磁気相関がみられるものの最低温度まで顕著な磁気秩序が観測されず、量子液体状態の実現を示唆する実験結果を得ている。低磁場基底状態におけるMn電子の局所対称性を明らかにするには、磁場印可方向を様々に変えて測定を行うなど、さらに詳細な研究が必要となるが、微視的視点から特異な磁気状態の実現を示唆する研究結果は1年目の成果としては期待通りであるため、研究課題の進捗状況としてはおおむね順調に進展していると評価した。 一方で、歪んだカゴメネットワークを持つCu系局在磁性体についての強磁場中NMR測定は20テスラを超える強磁場中において低温で磁気異常の観測には成功したものの、その検証のためにはより低い温度までの測定が必要となっていた。2022年度は強磁場装置の不調により共同利用実験を行うことができなかったが、これまでの高温測定からすでに測定が必要な温度、磁場範囲は絞りこまれており、2023年度に共同利用が再開され次第実験を完遂できる計画である
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、低磁場基底状態の性質はほぼ明らかになってきた。2023年度は低磁場で実現している量子液体状態に強磁場を印加し、強磁場中で実現する新たな磁気状態の対称性解明に迫る。最終的にはNMR測定を用いた局所対称性の解明を目指すが、それに先立って磁化、電気抵抗率などの基本的な物性をパルス強磁場領域まで行う。 これまでに研究室所有の小型パルス磁場発生装置を利用した基礎物性測定システムを開発してきており、これらを用いた30テスラ程度までの磁場領域は特に詳細に測定を行う。さらなる強磁場が必要な場合には東京大学物性研究所や大阪大学先端強磁場の共同利用研究を活用し、極限的な磁場中で実現する新奇物性を開拓する。大まかな磁気相図が得られたのち、狙いを絞ってパルス磁場中NMR測定を行い、磁場中に現れる新奇磁気相の対称性をミクロな視点から明らかにする。
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