研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04459
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 孝彦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20241565)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 分子性有機導体 / 量子スピン液体 / ダイマーダイポール |
研究実績の概要 |
本研究では,分子性有機物質である量子スピン液体k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3 とその周辺物質を対象として,スピン非秩序状態における電荷(ダイマーダイポール)揺らぎ-分子格子フォノン結合によるクラスター化・液晶化形成を低エネルギー分光手法により実験的に明らかにすることを目的としている.2022年度は,同物質に対する遠赤外-赤外反射分光手法により電荷揺らぎを反映する低エネルギー領域での光学スペクトル測定を行い,モット絶縁体状態であるはずの量子スピン液体状態において,明瞭な光学ギャップが開かずに電荷が揺らいだままである兆候が光学伝導度スペクトルに観測された.この結果は,本物質の量子スピン液体状態に特徴的な電荷揺らぎ(ダイマーダイポール)が励起スペクトルとして現れることを示している.この結果は,量子液晶の構成要素と考えるダイマーダイポールのゆらぎが量子スピン液体状態形成の要因である可能性を示すものである.この電荷状態については,分子格子との結合も合わせて考える必要がある.このため非弾性中性子散乱実験による格子ダイナミクス測定を計画し,中性子実験施設(グルノーブルILL,フランス)におけるリモート実験を国際共同研究として実施した.この結果,この物質で6K異常として種々の物理量に異常が観測される温度よりも高温側では,異常なフォノンダンピングが観測された.これはダイマーダイポールによる電荷揺らぎが格子と結合した結果を反映した現象と考えられる.一方で6K以下では,フォノン構造が明瞭になり,電荷揺らぎが凍結しフォノンとの結合が弱くなっていることを示唆する結果を得た.この観測は6K異常が非磁性低温秩序(VBS)相への相転移であるとする報告とも対応する.2022年度に理論研究者と微視的機構の検討を行いフォノン異常と電荷揺らぎ/スピン液体との相関についての論文を出版した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子スピン液体物質k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の電荷揺らぎ状態で発現する6K異常に関して,中性子散乱によるダイマーダイポール状態でのフォノン異常を明確にでき論文出版に至った.また,圧力下での静磁化測定によりダイマーダイポール状態から超伝導相への変遷を調査している.圧力セルからのバックグラウンド測定に時間を要しているが,再現性を確保できるようになったので,2023年度において進捗させることができる.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には,量子スピン液体物質k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の非弾性中性子散乱実験の結果をもとに2021-22年度に行ったk-(d-BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brのフランスグルノーブル中性子散乱実験施設を利用した非弾性中性子散乱実験の解析を進めてスピン-電荷のゆらぎと分子格子との相関を明らかにする予定である.またk-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3において2022年度実施の光学スペクトルの結果と合わせて,非弾性中性子散乱スペクトル,圧力下静帯磁率測定の結果を統合して「6K異常」の起源を明らかにする.あわせて,圧力下超伝導と6K異常の関係性を明らかにし,超伝導状態の特異性解明を進める.
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