ある自由度間における相互作用のキラル対称性の破れにより、渦などのトポロジカルな構造形成が引き起こされることが、量子系や古典系を問わず、様々な系において報告されている。一方で、バクテリアなどのアクティブマターの中にも、形状の捻れを有するものが多数存在し、そこではキラル対称性の破れた相互作用が重要な役割を果たしていると考えられる。ところが、このような相互作用を考慮に入れた微視的なアクティブマターモデルは、これまで構築されてこなかった。そこで本研究では、キラル対称性を破った相互作用と自己駆動力が作用するアクティブ粒子モデルを新たに開発した。このモデルを用いて数値計算を行うことで、発現する多様なトポロジカル構造とその動的挙動について探究した。 本モデルにおいて、相互作用に対する熱揺動力が小さい場合、半スキルミオン構造をもつ渦が多数形成されることが明らかとなった。さらに、粒子の自己駆動力を系統的に変化させていくと、自己駆動力がある閾値を超えた際に、各渦が非自明な向きで回転運動を開始するという興味深い現象が観測された。この振る舞いは、非平衡相転移現象の一つであdepinning転移と極めて類似した臨界現象としての振る舞いをみせた。また、渦の回転方向は、相互作用する渦の大きさと渦同士の中心間距離の関係によって決定されることを明らかにした。 本研究で提案したモデルは、キラル相互作用をもつ粒子系のアクティブマターという、新しいタイプのアクティブマターモデルである。本モデルにおいて見出された半スキルミオン構造や渦の回転運動は、新たな実験系への示唆を与えるものと期待される。
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