公募研究
本研究課題の目的は、少数キャリア希土類化合物 CeSbで発現する量子液晶の電子描像を確立させ,「悪魔の階段」で知られる複雑怪奇な磁気転移へ導く機能性を明らかにすることである。本年度は,レーザー角度分解光電子分光 (ARPES)に加えて,非弾性 X 線散乱分光とレーザー散乱分光を用いた測定を CeAs を CeSb に対して行い,各物質の相転移における電子相関機構の系統変化を電子状態とフォノン・結晶場の観点で調べた。その結果,CeAs/CeSb で異なった多体相互作用を反映した準粒子が発現していることを明らかにした。CeSb では四極子遷移に相当する高次の結晶場励起が反強磁性相で顕著になっており伝導電子がその結晶場励起と電子ボゾン結合によって準粒子が発現している一方で,CeAs では常磁性相においても低次の結晶場励起が素励起としてよく発達しており電子ボゾン結合を通して準粒子が発現していることがわかった。したがって,結晶場との電子ボゾン結合はこの物質群で共通した多体相互作用であるといえる。特筆すべきは, CeAs では結晶場励起だけでなく,フォノンにも温度に対して異常が見られ LO/TO 分裂が明瞭に観測された。この光学フォノンの分裂は希薄キャリアの半導体でよくみられる現象であるため,CeAs の相互作用は少数キャリア性によって特徴付けられていることがわかった。したがって,「悪魔の階段」と「量子液晶」などの特性を示す CeSb と示さない CeAs の違いは,キャリア数の変化はもとより,キャリア補償型の半金属としてフェルミ面の大きさに起因していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた圧力印加などによる反強磁性ドメインの空間分布制御や「量子液晶」を見出す上で重要な電気輸送の異方性やネマティック感受率などの測定まで行えなかったが, CeSb と CeAs の違いに着眼した実験的アプローチを行って少数キャリア性という非常に重要な観点を実験から見出すことができた。
本年度の研究によって,電子構造・結晶場・フォノンの3つの自由度から CeAs と CeSb における多体相互作用の違いに着目して,フェルミ面(セリウム 5d 軌道由来の電子面とプニクトゲンの p 軌道由来のホール面)の大きさが決定的な違いを導いていることを明らかにした。次年度は CeSb においてのみ存在する電子異方性,すなわち「量子液晶」との関連性を見出す。そのために,これまで 行われてこなかった圧力印加を軸とした測定を行い,CeAs/CeSb における圧力応答の違いを見出す。さらには,精度の高い電気伝導測定からネマティック感受率の定量評価も目指して,その他物質との比較から希土類化合物特有の「量子液晶」の振る舞いを見出す。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Physical Review Letters
巻: 129 ページ: 146401
10.1103/PhysRevLett.129.146401