公募研究
本研究では、鉄系超伝導体ネマチック相の電子状態の面内異方性を、磁場中での層間電気抵抗測定により明らかにすることを目指している。具体的には、鉄系超伝導体の面内に磁場を入れ、層間電気抵抗を面内磁場方位の関数として測定し、結果をバンド計算に基づく理論計算と比較することにより電子状態/フェルミ面の面内異方性を導き出すことを想定している。なお、面内異方性を見るためには、ネマチック転移において面内方位の90°異なるドメインが混じるのを防ぎ、シングルドメインの試料を得るため、デツインが不可欠である。本研究では試料を適当な基板に固定し、試料と基板の熱収縮の違いを利用してデツインする。また、 厳密に面内に磁場を入れて、層間電気抵抗を面内磁場方位の関数として測定するには、試料を極角θと方位角φの2軸に回転することが不可欠であるが、磁場17テスラまで使用できる2軸回転機構を利用する。本年度は、鉄系超伝導体母物質CaFeAsFの層間電気抵抗に生じる磁気抵抗の磁場方位依存性を詳細に調べ、下記の結果を得た。(1)最大14 Tの測定磁場範囲で、通常と異なり縦磁気抵抗(B // I // c)が横磁気抵抗(B ⊥ I // c)より大きい。(2)面内に近い磁場方位でコヒーレンスピークが観測される。(3)磁場が面内の場合、磁気抵抗はB // boの方がB // aoより大きく(ao, boは直方晶の結晶軸)、その異方性はT = 4 K、B = 14 Tで7倍に達する。これらの結果は、バンド計算に基づく伝導度の理論計算で定性的に再現されたが、面内磁場方位に関する異方性は計算で著しく過小評価され、電子ネマチック性の影響が通常の計算では十分に取り入れられていないと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
合計2年の公募研究の期間中に、鉄系超伝導体母物質CaFeAsF、鉄系超伝導体FeSeなどについて測定を行い、電子ネマチック相の電子状態の面内異方性についての知見を得ることを目指しているが、上述のようにCaFeAsFについて意味のある結果を得ることができたので概ね順調に推移していると自己評価する。
上述のCaFeAsFの測定と同様の手法を、鉄系超伝導体FeSeに適用し、その電子ネマチック相における電子状態の面内異方性を明らかにする。CaFeAsFではネマッチク秩序が反強磁性秩序と共存するが、FeSeでは反強磁性秩序は生じず、純粋な電子ネマチック状態が観測可能であり、両者の比較は重要である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Physical Review B
巻: 106 ページ: 184503-1-11
10.1103/PhysRevB.106.184503
npj Quantum Materials
巻: 7 ページ: 1-6
10.1038/s41535-022-00470-6
https://samurai.nims.go.jp/profiles/terashima_taichi