鉱物ダストは大気中のエアロゾル総質量の大きな割合を占める固体粒子であり、放射や雲との相互作用を通じて地球環境に影響を及ぼす。しかし、技術的な難しさから、発生源から離れた清浄大気におけるダストの濃度・粒径分布の報告は限られており、動態の理解が不十分である。本研究では、2022年の夏季に女満別空港を拠点に航空機を用いてフィルタ上に採取した、西部北太平洋上の高度0.2-8 kmのエアロゾル試料を対象に、複素散乱振幅センサによる分析を進め、ダストと判別された粒子の粒径別数濃度を定量した。8回の観測フライトにおける、粒径範囲約0.3-3.0 μmのダストの平均数濃度は0.8 cm-3であった。本研究で観測されたダスト数濃度は、先行研究で報告されている発生源近傍のダスト濃度より2-3桁低く、また、大粒径のダスト濃度が相対的に低かった。乾性沈着・湿性沈着による大気からの除去を免れた一部のダストが上空のバックグラウンド環境に存在している結果と考えられる。 また、同試料について、氷晶核数濃度の分析を実施した。-20℃における平均の氷晶核数濃度は0.2 L-1であった。この値は、先行研究で報告されている東京都市大気中の氷晶核数濃度の年平均値(~0.9 L-1)よりも有意に低く、夏のヨーロッパ北極圏における観測値に近かった。最も高い氷晶核数濃度が観測されたフライトでは、ダスト数濃度も比較的高かった。これは、ダストが特に-20℃以下で氷晶核として作用し得る主要なエアロゾルであることを考慮すると、定性的には妥当な結果である。しかし、ダスト数濃度が同程度でも氷晶核数濃度が低いフライトもあり、氷晶核数濃度の制御要因の複雑さが示された。 夏季の西部北太平洋上空のバックグラウンド環境において得られたこれらのデータは、ダストを含むエアロゾルの気候影響を推定する数値モデルの検証にとって有用である。
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