研究領域 | 変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot |
研究課題/領域番号 |
22H04489
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中村 啓彦 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (50284914)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 黒潮 / 東シナ海 / 梅雨前線 / 季節変化 / 東アジアモンスーン / 大気海洋相互作用 / 経年変動 / 海洋観測 |
研究実績の概要 |
本研究は、梅雨に影響を与える東シナ海の表層水温変動の原因を解明することを目的として、1)東アジアモンスーンの経年変動が東シナ海の黒潮を経年変動させる力学として、研究代表者が提案した「非線形エクマンパンピング仮説」(黒潮直上を吹く東アジアモンスーンが、黒潮上で非線形的なエクマンパンピングを形成し、黒潮の流速・流路の季節変動、さらにその変調として経年変動を引き起こすという仮説)を、現場観測を実施して検証すること、2)西日本の梅雨期の降水過程に影響を与える東シナ海の海水温の経年変動のメカニズムを解明することである。本年度は、以下の成果を得た。
1)に関連して、2022年6月に「かごしま丸」を用いた海洋観測を実施し、2021年6月から沖縄島西方の黒潮流域に係留中の多層式超音波ドップラー流速計4台を回収・再設置した。なお、本年度の航海では、梅雨期の豪雨に影響する海洋・大気環境場の特性を把握するために、当該新学術領域研究の計画班(A02-3班)と共同で大気・海洋同時観測も実施した。科学的成果として、2015/6~2020/6の日韓国際共同観測データを解析して、黒潮上の約1Paの風応力(流向方向)の季節変動は、約1m/sの海面流速の季節変動を励起することがわかった。この量的関係は、非線形エクマンパンピング仮説と整合的である。2)に関連して、東シナ海の黒潮は、2005年以降、顕著な準3年周期変動をしており、その結果、東シナ海北西部の陸棚上の水温変動が起こっていることがわかった。この準3年周期変動の原因は、2000年代以降活発化したCentral Pacific ENSOにより、西部北太平洋の風応力カールの変動が励起されたことによる。風応力カールの変動は、海面高度のロスビー波応答と、それに依存した低気圧渦の台湾沖への集中・分散を引き起こし東シナ海の黒潮を変動させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2つの副課題で構成されている。1つ目は、日韓国際共同観測の一環として、鹿児島大学附属練習船「かごしま丸」を用いて多層式超音波ドップラー流速計4台を東シナ海黒潮流域に係留し、取得された現場データに基づいて黒潮流速の時空間変動を調べることである。COVID-19の影響で、韓国研究者が「かごしま丸」に乗船して共同観測を実施することはできなかったが、韓国研究者から機材支援を受けながら日本側のみで観測を遂行することができたので、研究の進行が妨げられることはなかった。さらに、当初予定した通り、黒潮直上の風応力の季節変動が、黒潮の全層に渡って流速変動を引き起こしていることが証明できたばかりか、風応力変動に対する流速変動の変化率についても、当初予定した仮説が裏付けられつつある。これらのことより、1つ目の研究課題は、おおむね順調に進んでいるといえる。
2つ目の研究課題については研究が順調に進み、2022年度、当該分野の主要科学雑誌に2本の論文を公表し、1本の論文を投稿(審査中)することができた(公表論文リスト参照)。さらに、現在、解析中の研究についても論文準備中であり、2023年7月までに論文投稿できる予定である。これらのことより、2つ目の研究課題は、予想以上に順調に研究成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の計画を実施する。1つ目の研究課題(「非線形エクマンパンピング仮説」の検証)に関連して、2023年6月に「かごしま丸」を用いて海洋観測を実施する。この観測では、2020年6月から沖縄島西方の黒潮流域に係留中の多層式超音波ドップラー流速計4台を回収・再設置する。回収した3年分のデータを解析して、「非線形エクマンパンピング仮説」を検証する。これに関して、現在、日韓国際共同観測データ(2015/6~2020/6)に基づいて論文を作成しており、2023年7月頃の論文投稿を予定している。2023年6月航海では、日韓国際共同観測の継続課題(共同研究者は本研究課題の研究協力者)として、黒潮と対馬暖流の分岐現象の実態を把握するために本係留観測網の発展的な組み換えを行う。
2つ目の研究課題(西日本の梅雨期の降水過程に影響を与える東シナ海の海水温の変動のメカニズムの解明)に関して、梅雨期の東シナ海の海面水温の経変変動と近年40年間のトレンドの形成原因、それらが梅雨期の西日本の降水へ及ぼす影響の研究を進める。これらについては、すでに2022年度、以下の2点を明らかにした。1)東シナ海の黒潮は、2005年以降、エルニーニョ現象に起因して顕著な準3年周期変動を起こし、大陸棚上の水温変化を誘起し梅雨期の降水に影響した。現在、この研究結果は論文審査中である。2)東シナ海の黒潮は、この40年間、高温化トレンドを維持しており、それが黒潮上の対流性降水を活発化させて西日本の降水強化トレンドに繋がっている。今後、この研究成果を積極的に学会等で発表するとともに、速やかに論文公表する。さらに、東シナ海の大陸棚上の海面水温の変動過程を定量的に評価するために、海洋再解析データと熱フラックスデータを用いて熱収支解析をする。
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