公募研究
梅雨期の東シナ海では、海面付近の南寄りの風と、対流圏上層の北寄りの風で構成される大気循環が発生する。この大気循環の強まりが梅雨前線帯での集中豪雨の発生に寄与するという仮説を立て、本研究では大気循環の運動学的、熱力学的な変動のメカニズムを、日変化の時間スケールで解明することを目的とする。2022年度は南西諸島の沖縄本島にて、1日あたり最大8回の高頻度ラジオゾンデ高層観測を6月9日から7月20日の合計42日間にわたり合計241回実施した。この観測は、気象庁気象研究所が実施する九州とその周辺でのラジオゾンデ観測、新学術領域Hotspot2が実施する東シナ海上での船舶ラジオゾンデ観測、国際共同観測PRECIPの一環で与那国島で実施されたラジオゾンデ観測、名古屋大学と防災科学技術研究所の共同実施による航空機ドロップゾンデと同期して実施した。各プロジェクトのメンバーと遠隔ミーティングにより毎日連絡を取り合いながら、日々のラジオゾンデ観測の頻度を決定した。観測期間において、南西諸島または九州周辺で発生した集中豪雨事例を対象として、ラジオゾンデ、高頻度の静止衛星雲画像から得られる大気追跡風を用いた解析を実施し、集中豪雨の期間に東シナ海上で上層の北風と下層の南西風が強化されることを明らかにした。この上層北風に注目して地上気圧の傾向方程式を用いた診断を行い、上層の発散が梅雨前線低気圧の強化(気圧低下)に関係していることを明らかにした。この成果の速報を気象学会秋季大会で発表した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、高頻度のラジオゾンデ高層観測により、梅雨期に現れる「東シナ海大気循環」の運動学的、熱力学的な変動を日変化スケールで捉えることを目的とする。2022年度に計画していたラジオゾンデ観測を成功させることで、研究の遂行に不可欠なデータを取得することができた。この高層観測で得た風の鉛直分布を大気追跡風と比較することで、梅雨前線から吹き出す上空の風の特徴(厚さ、質量輸送量など)と、日変化の特性を調べることができた。これにより、梅雨前線上の雲活動の増大と同期した大気循環の強化を観測的にとらえることができた。これらの観測をもとにした初期解析結果を創出することができた。このため当初の目的をおおむね達成することができたといえる。
2023年度においても梅雨期のラジオゾンデ観測を行い、梅雨前線上の集中豪雨と同期した東シナ海の大気循環の変動特性に関するデータを取得し、大気追跡風とあわせて大気循環の変動特性を明らかにする。このような総観規模大気循環の、客観解析や数値モデルにおける再現性について、既存の客観解析・シミュレーションデータを用いた解析を行い、前線帯の対流活動と大気循環の関係をより詳しく調べる。さらに、数値シミュレーションを実施し、東シナ海における大気循環の短時間変動による集中豪雨の発生メカニズムを明らかにする。
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