本年度では、将来温暖化した日本周辺の大気海洋環境場が温帯低気圧化時の台風構造変化に与える影響を調査した。気候変動に関する政府間パネルの気候評価に用いられる結合モデル相互比較プロジェクトの第6期データから、現在と将来の大気海洋状態の差を擬似温暖化差分として作成した。2019年に日本に上陸し、温帯低気圧化した台風第19号(令和元年東日本台風)について、擬似温暖化差分を現在の大気海洋環境場に追加した擬似温暖化数値実験を、気象庁気象研究所のasucaを用いて実施した。同じ台風事例について、昨年度に実施した現在の大気海洋環境場での再現実験と比較することで、中緯度大気海洋環境場の温暖化が台風の温帯低気圧化時の構造変化に与える影響を調査した。将来中緯度の温暖化に伴い、温帯低気圧化時の台風中心付近における積雲対流に伴う水蒸気の凝結加熱が維持され、中緯度温帯域においても熱帯での典型的な台風構造を維持しうることが明らかとなった。これは現在の大気環境場での温帯低気圧化で見られた台風構造の衰退機構で重要と考えられる過程、すなわち高緯度からの寒冷な空気の流入による台風中心付近での積雲対流および凝結加熱の抑制機構を緩和することを示唆している。擬似温暖化実験を通した、現在と将来の大気環境場での比較から、将来の温暖化環境において起こりうる温帯低気圧化時の台風構造の変質機構が明らかとなった。 2023年の8月に日本に上陸した台風第7号に伴う山陰地方での豪雨について、平年より4度高い海面水温を記録した日本海の役割を擬似温暖化実験と類似の手法による数値実験で調査し、豪雨時の降水量の約20%が日本海の極端な昇温によりもたらされていることを明らかにした。これはA01(天気予報スケールの顕著現象と中緯度海洋研究)班の枠組みで実施された。 上記の結果を国内の学会、研究会において発表し、査読付き論文1編としてまとめた。
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