研究領域 | 変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot |
研究課題/領域番号 |
22H04493
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
直江 寛明 気象庁気象研究所, 気候・環境研究部, 室長 (70354511)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 季節予測 / 中緯度海洋前線帯 / 中緯度ジェット / 対流圏成層圏結合 |
研究実績の概要 |
メキシコ湾流などの暖流とそれに伴う中緯度海洋前線帯は、対流圏上層にまでその影響が及び、さらに対流圏の広域にも影響する。これまで、解像度の異なるSSTで大気モデル駆動した実験結果から、中緯度海洋前線帯はローカルな気候場にはかなり影響が大きく、高解像度のSST分布を与えると大気構造がよく再現されことが先行研究で示されている。一方で、中緯度海洋前線帯の大気への重要な役割として季節予測の精度向上への寄与が期待される、予測精度に対する影響の理解は未だ不十分である。 本研究では、最新の気象庁現業季節予測システム (CPS3) を用いて、海洋だけ低解像度にしたCPS3の予測実験を行い、高解像度CPS3の再予報データ、及び最新の気象庁第3次長期再解析データを用いて、海洋モデル解像度の異なる予測実験を比較から、冬季北大西洋における中緯度海洋前線帯の季節内予測(主に3-4週目予測)に焦点を当てて予測精度に与える影響評価を行った。 気候学的な差として、低解像度モデルでは、中緯度海洋前線帯の南側でのSST低温化とそのSSTに応答したローカルでの大気循環弱化が見られ、先行研究と整合的な結果であった。予測されたSSTの精度は、100km2オーダースケールでは、低解像度モデルの方が高かったが、1000km2オーダースケールの領域平均SSTでは、高解像度モデルの方が精度が高い。中緯度海洋前線帯全域領域平均(40-75W,35-45N)SSTと前線帯近傍の大気各要素とは変動に高い相関があり、中緯度海洋前線帯付近の対流圏下層から上層の大気場のアノマリー相関は概ね0.1-0.2程度改善することが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高解像度の気象庁現業季節予測システム (CPS3) を用いて、海洋だけ低解像度にしたCPS3の予測実験を行い、高解像度CPS3の再予報データ、最新の気象庁第3次長期再解析データを用いて、海洋モデル解像度の異なる予測実験の比較・解析を行った。実験結果の差から、冬季北大西洋における中緯度海洋前線帯の季節内予測への影響を調べた。海洋モデルの解像度は、中規模渦をある程度解像出来る25km(渦許容)とほぼ解像できない100km(渦非解像)である。 両モデルの30年平均の気候学的な差は、解像度の異なるSSTで大気モデルを駆動した実験による先行研究と整合的な結果であった。予測されたSSTの精度は、100km2オーダースケールでは、渦非解像モデルの方が高かったが、1000km2オーダースケールの領域平均SSTでは、渦許容モデルの方が精度が高い。これは、中途半端に渦を解像する渦許容モデルでは、渦の位相ズレを起こし精度が悪化している可能性が考えられる。中緯度海洋前線帯全域の広域スケールでの平均で比較すると、100kmモデルより25kmの方がSSTの年々変動をより正確に表現している。 中緯度海洋前線帯全域領域平均(40-75W,35-45N)SSTと前線帯近傍の大気各要素とは変動に高い相関があり、大気各要素の予測精度改善が期待される。実際、中緯度海洋前線帯付近の対流圏下層から上層の大気場のアノマリー相関は概ね 0.1-0.2 程度改善することが確認できた。よって、中緯度海洋前線帯の表現の改善は、広域(1000km2)スケールでのSSTの予測精度を改善し、近傍の大気場の予測精度によい影響を与えると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
高解像度の季節予測システムを用いて中緯度海洋前線帯が予測精度に与える影響評価を評価する。今年度も引き続き、気象庁現業季節予測システムで、海洋だけ低解像度のモデル実験データ、高解像度CPS3の再予報データ、最新の気象庁第3次長期再解析データを用いて、海洋モデル解像度の異なる予測実験の比較解析を行い、メキシコ湾流近傍における中緯度海洋前線帯が北大西洋対流圏ジェット変動の予測精度に与える影響の評価を行う。 具体的には、長期再解析データと上記のモデルデータを用いて、熱帯東部太平洋上で海洋解像度の違いによるSST予測精度の調査、エルニーニョ/ラニーニャ発生時における中緯度海洋前線帯領域平均SSTと対流圏の大気各要素変動(気温、風、上昇流、高度)との回帰や相関を調べ、エルニーニョ年やラニーニャ年による予測精度の変動の違いを評価する。評価する領域は、海洋前線帯近傍とその下流域にあたる欧州付近とし、エルニーニョ/南方振動の状態よって北大西洋の中緯度海洋前線帯が季節内予測に与える影響に違いがあるかどうかを調べる。 大陸東岸の寒気流出時に中緯度海洋前線帯が対流圏ジェット変動に与えるプロセス解明を行う。最新の長期再解析 (JRA-3Q, ERA5)データや再予測データを用いて、メキシコ湾流近傍の中緯度海洋前線帯が北大西洋対流圏ジェット変動に与えるプロセスを解明する。北米北大西洋で対流圏成層圏結合が強化する冬季において、低解像度SSTと高解像度SSTの比較から、中緯度海洋前線帯が対流圏ジェットに与えるプロセスの解明を試みる。
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