近年の詳細な衛星観測と高分解能の数値モデル実験により、黒潮などの暖流とそれに伴う中緯度海洋前線の影響は対流圏上層にまで及んでおり、季節予測の精度向上への寄与が期待されている。海洋モデルでは中緯度西岸境界流や中規模渦を表現するのに、少なくとも10km程度の高い水平格子解像度が必要とされ、高解像度化して渦の再現性を高めるとモデル気候値が有意に変化することが指摘されている。本研究では、最新の気象庁現業季節予測の大気海洋結合モデルにおける海洋モデル解像度比較実験から、冬季北大西洋における中緯度海洋前線帯の季節内予測の影響評価、および対流圏・成層圏大気の東西風気候値の変化について調べた。 低解像度モデルでは、中緯度海洋前線帯の南側でSST低温化とSSTに応答して局所的な大気循環が弱化し、先行研究と整合的である。予測SSTの精度は100km2オーダーで低解像度の方が高く、1000km2オーダーでは高解像度モデルの方が精度が高い。中緯度海洋前線領域平均SSTは前線帯近傍の大気各要素との変動に高い相関があり、北大西洋域における冬季の季節内予測(3-4週目予測)は中緯度海洋前線の表現の改善により、近傍の対流圏下層から上層にかけアノマリー相関は概ね0.1-0.2程度改善する。 低解像度結合モデルに対して、高解像度モデルには赤道付近や中緯度海洋前線帯にSST昇温が見られた。両半球の熱帯収束帯の対流活動は赤道側で活発化し、ウォーカー循環の上昇流域は太平洋側へ東偏した。対流圏上層の亜熱帯ジェット気流は赤道側で加速し、北半球成層圏の極夜ジェットは強化されていた。極夜ジェットの強化と整合的に、100hPaにおいて成層圏へ向かう上向き波活動度フラックスは正味の弱化がみられ、特に熱帯の海洋変化に関連した波数1の定在波の弱化が最も大きく寄与していることがわかった。
|