シリコンの単原子層物質であるシリセンは、座屈したハニカム構造を有し、その結果として線形なバンド分散を持つ二次元トポロジカル絶縁体となる。その新奇な特徴を活かしたデバイスの開発が期待されている。単原子層物質に、多様な機能を付与するために、異種元素のドーピングが有効である。単原子層物質中に異種元素を原子レベルで自在配列させることが可能になれば、配列・評価・理論計算のサイクルによって新奇な機能の発現が期待できる。そこで本研究では、原子間力顕微鏡(AFM)と走査トンネル顕微鏡(STM)の複合装置により、単原子層物質であるシリセンで様々な異種元素を配列させて、その局所状態を評価し、理論との比較により機能発現への指針を得ることを目的とした。今回、シリセンの上に原子を吸着させて新しい原子層物質を創製した。シリセンの上に原子を吸着させるとシリセン自体のバックリングの構造が変化することが明らかになった。また、原子操作により、シリセンの上に吸着した原子を自在配列できることを示した。 一方、領域内の共同研究として、NbOの表面構造を決定した。Nbを超高真空中で加熱すると、結晶内部の酸素原子が表面へ移動するため、最表面はNbの酸化表面となることが知られていた。これまで多くの実験によってその酸化表面の構造モデルが提案されていたが、決定には至っていなかった。今回、AFMによりNbの酸化表面を高分解能に観察した。探針先端の原子の極性によって、Nb原子が見えるAFM像と、O原子が見えるAFM像に分類できることが明らかになった。これにより、先行研究の構造モデルがどれも正しくないことが判明した。そこで、第一原理計算によって構造モデルの探索を行い、実験を再現する構造モデルを得て、それがエネルギー的に安定であること確かめた。
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