公募研究
SrTiO3(STO)基板上の単層FeSe薄膜は、40-109Kという高い転移温度Tcで超伝導を示すことが報告されている。これはバルクFeSeのTcが8Kであり、一般に物質を薄膜化するとTcが下がることを考えると、驚くべき事実である。このTc上昇の原因としてSTO基板とFeSe薄膜での界面が重要な役割を与えると考えられているが、我々はこれまでの研究によりSTO基板のNbドープ量が本質的な役割を果たしている可能性を突き詰めた。本年度はこれを検証するため、NbでドープされたSTO基板上に単層FeSe薄膜を作製し、その場(in situ)電気伝導測定により超伝導転移を観察した。過去に絶縁STO基板を用いて明確な超伝導転移が40Kで観測できていたが、Nbドープ基板の場合はそもそも常伝導状態の抵抗が低いため、超伝導転移に伴う明確なゼロ抵抗の観測は難しかった。しかしそれでも40Kで電気抵抗が明確に低下する様子がやはり観測され、基板中のNbがこの系の超伝導には本質的に影響を与えていないことが示唆された。さらに、電気伝導を測定した同じ試料に対して、角度分解光電子分光を用いた、超伝導ギャップの測定を行った。これによると、エネルギーギャップは70Kから生じ始めることが分かった。つまり分光学的なエネルギーギャップの形成は実際の超伝導転移よりも高温から生じることを明らかにした。このような特徴は銅酸化物高温超伝導体で擬ギャップとして有名であり、超伝導と競合する別な量子相が形成されている可能性が示唆される。一方で乱れの効果でもこのような特徴が観測されるので、単結晶薄膜でも表面の周期に由来した「実行的な乱れ」の効果が現れているだけの可能性もある。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の主目的である、Nbが単層FeSe/STOの高温超伝導に影響を与えるか否かに関してはすでに知見が得られた。
今後は表面の周期性がTcにどう影響するかを解明するために、これまで用いてきた√13×√13表面のみならず、2×1、√5×√5表面などを用いて同様の実験を行っていく。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件)
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