本研究では,半導体におけるキンクの原子構造と運動挙動の解明に向け,第一原理計算(DFT計算)データを学習させた人工ニューラルネットワーク(ANN)原子間ポテンシャルを構築し,分子動力学計算やNudged elastic band(NEB)法に組込んだ.これにより高速・高精度を維持する計算手法を構築した。そして,ANNポテンシャルにもとづく分子シミュレーションをSiのすべり系における種々の完全転位および部分転位に適用し,それらの形成エネルギーや原子構造を評価した.その結果,先行研究やDFT計算結果を正確に予測できることを示した。また本手法をもとに,数万原子規模の計算セル中に孤立した転位が存在するモデルを用いて長時間のMD計算を行うことで,転位線付近の原子の格子振動挙動が現実的な計算時間で解析できることを示した.これにより,今後のキンクに対する原子レベル解析が大きく進歩すると期待できる.さらにANN原子間ポテンシャルを多元系に拡張し,化合物半導体やSi半導体のPやBといった不純物に対する解析も可能とした.これにより今後は,単元系のみならず,化合物半導体のキンクや,キンクと不純物原子の相互作用が運動挙動に及ぼす影響も定量解析が可能になると期待できる.
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