本研究では、電子・フォノン輸送制御した“修飾機能コア界面含有透明熱電薄膜”を創製する。ここでは、薄膜中のドメイン界面に挿入した修飾原子の弱結合由来の非調和フォノン振動が界面熱抵抗を高めて熱伝導率低減をもたらす。また、修飾原子による界面エネルギー障壁変調を用いて熱電出力因子増大を狙う。これにより、環境調和型の高性能透明熱電材料を開発するとともに透明薄膜熱電デバイスの発電能力を検証することを目的とする。 昨年度、極薄ZnO層/SnO2層積層膜において、3 W/mK以下の極小熱伝導率、70%の高光透過率を同時に達成した。令和5年度は、高出力因子化とさらなる熱伝導率低減に取り組んだ。本積層膜において、ZnO層導入前に対する導入後の出力因子の倍率は0.5であった。これは、先行研究の未制御界面導入構造(<0.2)よりも十分に高かった。これは、本積層膜の界面がエピタキシャル関係を保って形成されたため、移動度低下が抑制され、加えてエネルギー障壁形成により高いゼーベック係数を実現できたことに起因する。一方、さらなる熱伝導率低減に向けて、原子質量差の大きな修飾原子・ドーパントに注目した。これまでは、SnO2へのドーパントとして、Snと原子サイズの近いSbを用いていたが、原子サイズの小さなAsを導入した。母相SnO2薄膜で検討を行ったところ、1.7 W/mKの極小の熱伝導率が達成された。また、AsとSbドープにおいて出力因子は同等の値を保っていた。つまり、これまでのSnO2薄膜のデバイス出力(~50 microW/cmK2)を2倍程度更新する結果をもたらすことを意味する。これより、ナノスケールの機能コア界面、原子スケールの機能コアドーパントの同時導入は、究極に低い熱伝導率を実現しつつ高出力因子を維持すること可能とするという、機能コアを用いた熱電性能向上の新学理確立に成功した。
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