走査型透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた電子線エネルギー損失分光(EELS)を用いることにより、物質の特性を支配する局所原子配列・電子状態、すなわち機能コアを直接観測することが可能となる。EELSを用いて機能コアの解析を行うには、スペクトルから機能コアに関わる局所原子構造を取得する「逆問題」を解く必要がある。本研究では、機械学習を用いて、EELSスペクトルから局所原子配列情報を抽出する新しい解析手法の開発を目的とする。 この目的を達成するために、まずEELSスペクトルから構造記述子(励起原子を中心とする動径分布関数、および Orbital-Field Matrix (OFM)) を予測する機械学習モデルを作成した。10万程度のデータを用いて多層ニューラルネットワークモデルを作成したとろ、これらの構造記述子を高い精度で予測することに成功した。これにより、原子間距離だけでなく、励起原子周辺の構造異方性や配位子の電子状態の違いをEELSスペクトルから直接抽出できることを示した。 一方で、構造記述子から3次元の原子配列を復元することは容易ではない。そこで、原子構造やスペクトルを画像データとして捉え、近年急速に発展している画像認識・画像生成アルゴリズムを適用することで,EELSスペクトルから局所原子構造を三次元空間の座標データとして直接抽出できる新しい機械学習法を試みた。励起原子を中心とする立方体を等間隔のメッシュに分割して原子がメッシュ内に存在するかどうかをデジタルデータとして表現した原子配列を画像データとして取り扱うことで、原子配列を予測することが可能であるという手応えを得た。機械学習モデルの精度の向上が今後の課題である。 これらの研究を通して、機械学習を用いてEELSスペクトルから局所原子配列情報を予測するというコンセプトが機能することを示した。
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