研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
22H04516
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 靖哉 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80324797)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 分子集合体 / 希土類 / 光機能 / 水溶性 |
研究実績の概要 |
水圏環境において、水溶性分子へ水素結合部位を導入すると分子間ネットワークによる会合体形成が誘起される。本研究では、水素結合部位を含む水溶性希土類錯体の水圏環境中における会合形成を行う。 希土類錯体は4f軌道に由来する色純度の高い発光(発光スペクトルの半値幅10 nm以下)を示すことから、ディスプレイ等への画像応用が研究されている。希土類の特徴的な発光機能に加えて、希土類錯体の立体構造に依存した発光特性変化を報告してきた。さらに、ポリエーテル鎖を導入した水溶性の希土類錯体は水圏環境においてナノサイズの分子集合体を形成することも明らかにした。 水圏環境において、水溶性分子に水素結合部位を導入すると分子間ネットワーク構造を形成する。この水素結合ネットワークは分子認識や超分子集積およびゲルなどの会合体を誘起する。水溶性希土類錯体のポリエーテル鎖にアミド部位を導入することで、アミノ酸との分子会合体形成と光機能の変化が誘起される。このアミド結合はタンパク質等との集合体形成も可能であり、水圏機能材料を生体環境研究まで拡張することができる。水圏環境における生体分子とのネットワークの構築および解析は本領域の新しい学理を切り拓くことが期待される。 本研究では、水溶性Eu(III)錯体にアミド結合部位を導入した発光性集合体「アミドEu(III)ミセル」を開発し、この集合体とアミノ酸等とのネットワーク形成による水圏環境での会合体の形成(構造変形:学理研究)を検討する。さらに、アミドEu(III)ミセルとタンパク質との会合体形成を行い、水圏環境におけるタンパク質の動的構造変化(ホールディング)をEu(III) 部位の発光寿命解析によって評価する。また、会合体のがん細胞への取り込み挙動を蛍光顕微鏡の統計解析によって評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では水溶性の希土類錯体のポリエーテル鎖の末端にアミド部位の導入を試みた。具体的には、ポリエーテルアミンと無水酢酸エチルとの反応によってアミド部位を導入し、p-TsClでトシル化した後にホスフィンオキシドと反応を行うことで、アミド部位含有の水溶性配位子を合成した。発光部位はアミノ酸や細胞との集合体形成を念頭に置き、生体分子が吸収を持たない450nm光でも励起可能なナフタレン部位を光吸収アンテナ(光増感部位)とする有するEu錯体(Eu(ntfa)3(H2O)2)(ntfa: 3-(2-naphtyl)- 1,1,1-trifluoroacetonate)を合成し、配位子とメタノール中で錯化させることで目的のアミド部位を有するEu(III)錯体を合成した。 得られたEu(III)錯体は水に不溶であったため、Eu(III)錯体と界面活性剤トリトンXを混合して水(pH=7)に溶解した。Eu(III)錯体を含むミセル「アミドEu(III)ミセル」形成についてはDLS装置および表面張力測定装置(臨界ミセル濃度測定)によって評価を行った。 次に、水溶液中における発光スペクトルと発光寿命を計測した。さらに、発光量子効率の測定もを行い、水溶液中における発光速度論解析を行った。ミセル内でのEu(III)錯体の発光量子効率はメタノール中よりも高く、水溶液中にて良好な発酵特性を示すことがわかった。 以上、アミド部位をポリエーテル鎖の末端に配置した新規なEu(III)錯体の合成ルートを確立することに成功した。さらに、水溶液中におけるミセル挙動や発光機能評価についても確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は希土類錯体のさらなる水溶性向上とアミノ酸の捕獲挙動の観察について検討を行う。具体的には、希土類錯体の水溶性とアミノ酸捕獲挙動を高めるためにポリエーテル鎖の拡張を行う。ポリエーテル鎖のエーテル結合の数を増やすことで水圏環境中の希土類錯体のフレキシブル性が向上し、アミノ酸との結合力も高まることが期待される。本年度はこの希土類錯体の分子構造を改良することを最優先に行う。 アミノ酸の捕獲挙動については、希土類の円偏光発光測定により評価する。希土類錯体にキラル部位を有するアミノ酸が結合することで希土類イオンの配位構造に異方性が伝達し、希土類イオンからの発光は円偏光性を示すことが期待される。水圏環境中に改良された希土類錯体とキラル部位を有するアミノ酸を導入し、希土類イオンからの円偏光発光挙動観察によってアミノ酸捕獲機能を評価する。 さらに、改良された水溶性希土類錯体と巨大タンパク質の結合も検討する。具体的には、BSAに希土類錯体を固定化する。BSAは水圏環境の温度によってホールディングとディホールディングが可逆的に変化することが知られている。この巨大タンパク質に取り付けた希土類錯体はタンパク質の構造変化によって構造変形(希土類周りの立体対称性が変化)することが期待される。希土類の配位部位が構造変形すると発光スペクトルの磁気双極子バンドと電気双極子バンドの割合が変化する。この発光バンドの変化によってタンパク7構造変化の挙動を評価する。 以上、アミノ酸部位を有する水溶性希土類錯体の改良を行い、その錯体を用いてアミノ酸捕獲機能の評価と巨大タンパク質の構造変形挙動の観察を行う。
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