研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
22H04519
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中村 貴志 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90734103)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水素結合 / 分子認識 / 水 / 超分子 / シクロデキストリン / アミド / NMR / ホストゲスト化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、水素結合と配位結合を駆使した超分子的アプローチに基づき、水分子の挙動の詳細な理解を通じた、水圏で機能する水素結合型レセプターの機構解明と強靭性材料の開発を目的としている。 研究代表者らは公募研究1期目で、7つのN-メチルピリジ ニウムアミド基をもつβシクロデキストリン誘導体の合成と単離に成功した。更なる研究展開のため、このアミドシクロデキストリン誘導体を十分量合成した。シクロデキストリン誘導体の構造を調べるために温度可変NMR測定を行ったところ、278 Kの水中において自己包接体と非自己包接体が、6:4の比で存在していることがわかった。さらに、アミドシクロデキストリン誘導体とフェニルリン酸の1:1複合体についてNOESY解析を行ったところ、ゲストのフェニル基がそのリン酸部位をピリジニウムアミド基側に向けた状態でシクロデキストリン環状骨格の内孔に包接されており、リン酸部位はアミドN-H付近に位置していることがわかった。そして、1-アダマンチルリン酸をゲストとした1:1複合体の形成により、アニオンの包接に伴ってアミドN-Hプロトンシグナルが低磁場シフトすることを確認した。続いて、フェニルリン酸と1-アダマンチルリン酸をゲストとして用いた温度可変ITC測定を行った。その結果、フェニルリン酸ではΔH, ΔS, ΔCp < 0となり、1-アダマンチルリン酸ではΔH ~ 0, ΔS, ΔCp > 0となった。これらの結果より、1-アダマンチルリン酸では疎水効果が、フェニルリン酸ではそれ以外が包接の主な駆動力として働いていると考えられる。 また、金属配位結合の形成/解離を利用して他の可逆相互作用では実現できない強靭性を示す超分子ヒドロゲルの創製に向けた領域内共同研究を推進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素結合は官能基選択性と可逆性を兼ね備えることから分子認識の手段として有効だが、 水分子が結合部位に競合するため水圏での利用には適さないと考えられてきた。本研究では、開発したN-メチルピリジニウムアミドシクロデキストリン誘導体が、水溶液中でリン酸モノエステルに対して高い選択性をもって結合することを明らかにした。さらに、2次元NMRを用いた詳細な構造解析や、さまざまなアニオンの結合実験による選択性検討、ITC測定を用いた包接の熱力学パラメータの決定により、アニオン認識の選択性は、シクロデキストリン内孔の疎水効果と、アミドN-Hプロトンによる水素結合の両方の寄与によって説明できることがわかった。これは、水圏で機能する水素結合型レセプターの設計指針を確立する上での重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
アミド上の置換基や、シクロデキストリンのピラノースユニット数の異なる誘導体を合成し、水素結合パターンや水和状態を制御する。一連のホスト/ゲストの組合せで結合実験を行い、各部分 (アミド基/ゲスト分子) の水和の寄与を決定する。詳細な構造情報や水和パラメータを反映して計算モデルを最適化し、実験/理論の両面から水分子の挙動について統合的に理解する さらに、配位結合の特性を活かした強靭な超分子ヒドロゲルの創製の研究においては、金属/配位子の比率 Kと金属/配位子の解離速度 k を低分子系で決定し、さらに配位結合による架橋率と緩和時間が最適となる新たな配位子/金属イオンの組合せで材料を設計・合成する。含水率・モノマー比をそれぞれ最適化するとともに、ヒドロゲルの構造解析の結果を分子設計に反映させることで、水圏で機能する強靭性材料を創製する。
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