研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
22H04525
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉原 加織 東京大学, 生産技術研究所, 講師 (60740800)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メカノクロミックポリマー / ポリジアセチレン / 原子間力顕微鏡 / 摩擦力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
メカノクロミックポリマー、ポリジアセチレンがどの向きに、どの程度の力を加えることでどれだけ発光するのかという「力と発光の相関」が水分子の存在でどのように変化するのかを、近年自身で開発したナノ摩擦力顕微鏡を導入し世界で初めて解明する。ポリジアセチレンは比較的高感度であり、抗体を付加することでウィルスなどの抗原を色によって検出する、現存のものより安価なコロナ検査薬などバイオセンサ開発が進められている。本研究で得られる「水中でどのようなタイプの力に特に反応するのか?」という情報を元に、ポリマーに組み込むレセプターの位置や角度をコントロールすることで、検出物質の付着が発光を効率良く誘起させるようにセンサをデザインし、メカノクロミック・バイオセンサ感度向上を前進させる意義がある。メカノクロミックポリマーを初めて水圏機能材料という視点で捉えることで、その感度・選択性を水によってコントロールするという新たな発想にもとづき、エンジニアリングの可能性を拡張する。
本研究の鍵となるナノ摩擦力顕微鏡を当該領域で研究されているその他の水圏機能材料に応用することで、共同研究を通して幅広い材料のメカノ機能解析に貢献することが可能である。また、メカノクロミックポリマーを初めて水圏機能材料という視点で捉えることで、その感度・選択性を水とイオンによって制御するという新たな発想にもとづき、エンジニアリングの可能性を拡張する。これにより分野のボトルネックを突破し高感度・高選択性センサ開発を飛躍的に前進させる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験1:ナノ摩擦力顕微鏡の水中稼働 2022年度では、これまで大気中で使用していたナノ摩擦力顕微鏡を水中稼働に拡張するところから始めた。摩擦力顕微鏡では、横方向のレーザーのブレからウェッジカリブレーション手法を用いて横方向の力を抽出する。この手法では、微細加工により作成されたウェッジ(坂)を原子間力顕微鏡のチップでスキャンし、その時の力の釣り合いの式を解くことで、スロープがチップに加えている横向きの力を計算する。その時のレーザーのブレを測定することで、レーザーのブレ[V]を力[N]に変換するカリブレーションファクターalphaを得る。このalphaを用いることで、今後このチップに関しては任意のレーザーのブレVを力Fに換算することができる。この時のレーザーのブレは大気中と水中の屈折率の差に影響を受けるため、水中稼働の場合はこのウェッジカリブレーションを水中で行う必要がある。実験の結果、AFMのスキャン速度と縦向きの力(セットポイント)がある一定値以内であることを条件に、摩擦力顕微鏡は水中で正確に稼働するということがわかった。
実験2:「力と発光の相関」を生理緩衝液中で解明 ポリジアセチレンのメカノクロミズムは、ポリマー化した直後の準安定的な構造から、力を加えることで、頭部酸基の水素結合、尾部の疎水性相互作用、エントロピーのバランスによりエネルギー的に最も有利となる構造に緩和することで起こる。水分子の存在が水素結合、疎水性相互作用、エントロピーに影響を与え、ポリジアセチレンの力に対する応答を変化させるのか?この問いに答えるため、摩擦力顕微鏡と蛍光顕微鏡のダブル・セットアップを水中で稼働させ、「水溶液中での力と発光の相関」を定量的、異邦的、ナノスケールで解明した。その結果、ポリジアセチレンは水中で力に対する感度を向上させるということを発見した。
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今後の研究の推進方策 |
実験3:イオン濃度・種類依存性 ポリジアセチレンの頭部は酸基であるため、イオン濃度・種類に依存して頭部同士の静電気相互作用が変化しメカノクロミズム特性が変わる。この様子を定量的に調べるために、「水溶液中での力と発光の相関」をイオン濃度・種類(e.g. Na+, K+, Ca2+)を変化させながら測定する。
実験4:pH依存性 ポリマーの頭部は弱酸(COOH)であるため、pHによってプロトネーションの度合いが変化し頭部同士の静電気的な反発が変わる。これにより構造が変化するためポリジアセチレンはpHに依存して色が変化することが知られている。この現象を定量的に調べるため、「水溶液中での力と発光の相関」のpH依存性を調べる。
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