研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
22H04526
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
一川 尚広 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80598798)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 燃料電池 / プロトン伝導メカニズム / ジャイロイド / 液晶 / 水 |
研究実績の概要 |
水素を基盤としたクリーン社会を実現する上で、燃料電池は中核を担うデバイスである。様々な形態の燃料電池が開発されているが、水素イオン(プロトン)伝導性高分子膜を用いた固体高分子形燃料電池は、低温から中温域で活躍するシステムであり、自動車などに最適なシステムである。ナフィオンというフッ素系高分子電解質膜を用いて非常に優れた固体高分子形燃料電池が実現されているが、更なる高機能化・低コスト化・環境調和性の改善などを実現するためには、フッ素元素に頼らないプロトン伝導膜設計技術の刷新が不可欠である。これまで我々はジャイロイド構造を有する特異なプロトン伝導膜を開発してきた。我々が設計・開発した重合性基を有する両親媒性双性イオンに適切なモル比の酸(例えば、HTf2N)と水を添加すると、自己組織的にジャイロイド構造を形成する。この状態で光照射すると、分子同士の重合が起こり分子間の連結が進むと、分子集合構造を保ったナノ構造膜し、このような膜を得ることができる。膜内のどの点においても一辺が約10 nmのジャイロイド立方格子が出来上がっている。この膜の含水率が15 wt%を越え始めると非常に優れたプロトン伝導挙動(極めて高い伝導度:10-1 S cm-1, 非常に低い活性化エネルギー:~5 kJ mol-1)を示すことが分かっている。しかし、構成分子の分子構造と膜の物性の相関に関しては十分に検討しきれていない。また、取り込まれた水分子が界面上でどのような状態になっているのかも十分に明らかにできておらず、界面上の水分子の”状態”と”構造”を調べることは重要と考えている。本研究では、最先端の分光法やシミュレーション技術を駆使して、この界面上のプロトン伝導メカニズムを明らかとし、革新的なプロトン伝導膜の創成技術の構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
膜内の水分子の水和状態や物理化学的な値(拡散係数など)がプロトン伝導現象に強く関与していることが予想される。そこで界面上の『水分子数/スルホ基数』を調整したサンプルを用意し、中性子準弾性散乱測定を行ったところ、水分子のダイナミクスを明らかにすることができた。特に双性イオン部位に対して極めて強く結合している水分子と弱く水和している水分子を分けて解析することに成功した。これらの結果から、プロトン伝導メカニズムについての考察も大幅に進んだため、極めて順調に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
水分子数/スルホ基数を変化させると、水分子の水素結合ネットワーク内に存在する欠陥構造(O-Oの近接やH-Hの近接など)の形成が促進/抑制され、結果として水の『液体構造』が大きく変化する可能性がある。水分子の”水素結合様式”や”O-H結合の距離の変化”を追跡する手法として、軟X線吸収/軟X線発光スペクトル測定が有用と考えているおり、今年度実施できればと考えている。 膜内のスルホ基の”水和状態”もプロトン伝導性に関与する重要な因子である。この膜の中の水和量は相対湿度によって自在に調整できるので、様々な湿度下において赤外分光測定を行うことで水分子数/スルホ基数と水和状態の関係を精査する。特に、時間分解測定やマッピング測定を駆使することで、湿度可変条件下における水和状態の変化を追跡する。通常の赤外分光測定で難しい場合は、放射光赤外分光測定により測定を行う計画である。
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