研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
22H04534
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鳥居 肇 静岡大学, 工学部, 教授 (80242098)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水素結合 / スペクトル / 電子密度 / 振動モード |
研究実績の概要 |
水の存在下において機能を発現する材料を創成するために,水と材料の分子レベル・ナノ集合レベルでの相互作用を捉えようとするにあたって,分光学的測定による解析が有力な一手法であり,「水圏機能材料」学術領域においても特徴の1つとなっている。測定結果を従来の経験則に基づいて解析しても,ある程度有用な情報が得られるが,より詳細かつ正確に解析しようとすれば,理論計算との組合せが不可欠である。そこで,水のOH伸縮モードに加えてHOH変角モードのほか,材料分子側の水素結合受容官能基の振動モードを対象に,分子間相互作用と分光学的性質の相関を解析し,これらを総合して多面的解析を行うための方法論の確立に向けて検討を進めるとともに,領域内で行われている実験的研究との融合により,機能性材料分子との相互作用に関わる水分子の性質の解明を進める。 令和4年度においては,材料分子側の水素結合受容官能基の典型例としてニトリル基とカルボニル基について,伸縮振動の振動数が溶媒との相互作用によってどのような挙動を示すか,理論的に解析を進めた。ニトリル基については,溶媒pKaとの相関が主として静電相互作用によって説明できることを明らかにした。また,両官能基について,金属イオンとの相互作用による影響を含めて,解析を進めている。関連課題として,硝酸イオンの伸縮振動の振動数に対する水和の影響について,静電相互作用モデルを構築した。 HOH変角モードについては,同位体置換種(HOD)の振動数の挙動が,溶液内において非対称的に相互作用する水分子に関する描像を解析するのに有用であることを見出したところであり,継続して解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,「水のHOH変角モード」「水素結合受容官能基の振動モード」の双方について,分子間相互作用と分光学的性質の相関解析の進展を得ることができた。前者については,溶液内において非対称的に相互作用する水分子に関する描像を解析する道筋が得られ,学会発表をしたところであり,論文発表に向けてさらに解析を進めている。後者については,ニトリル基について,溶媒pKaとの相関が主として静電相互作用によって説明できることを明らかにした結果をJ. Mol. Liq.誌に論文として発表したほか,カルボニル基と金属イオンの相互作用系については学会発表の手続きをしたところであり,関連課題である硝酸イオンの伸縮振動の振動数に対する水和の影響については,論文発表に向けて準備中である。このことから,「おおむね順調に進展している」と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
HOH変角モードについては,解析対象とする水クラスターのサイズ効果の有無を検討したうえで,統計的解析をおこない,大規模系への応用を図る。関連課題としたアニオン対象の解析は,硫酸イオンなど他の幾つかの典型的なアニオンに対象を拡げたうえで,水素結合受容官能基と金属イオンの相互作用解析と合わせて,電解質溶液中での材料分子系への応用を図る。さらに,領域内で行われている実験的研究との融合を進めることにより,機能性材料分子との相互作用に関わる水分子の性質の解明を進める。
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