水の存在下において機能を発現する材料を創成するために,水と材料の分子レベル・ナノ集合レベルでの相互作用を捉えようとするにあたって,分光学的測定による解析が有力な一手法であり,「水圏機能材料」学術領域においても特徴の1つとなっている。測定結果を従来の経験則に基づいて解析しても,ある程度有用な情報が得られるが,より詳細かつ正確に解析しようとすれば,理論計算との組合せが不可欠である。そこで,水のOH伸縮モードに加えてHOH変角モードのほか,材料分子側の水素結合受容官能基の振動モードを対象に,分子間相互作用と分光学的性質の相関を解析し,これらを総合して多面的解析を行うための方法論の確立に向けて検討を進めるとともに,領域内で行われている実験的研究との融合により,機能性材料分子との相互作用に関わる水分子の性質の解明を進める。 令和5年度においては,材料分子近傍に存在する典型的なアニオンの1つである硝酸イオンについて,伸縮振動に関わるスペクトルが溶媒の水との相互作用によってどのような挙動を示すか,理論的に解析を進めた。硝酸イオンのように,複数の等価な結合がやや独立して水和の影響を受ける系では,静電相互作用モデルに基づく取扱いにおいて従来とは異なる手法が必要であるが,本研究ではその手法を新たに考案し,それが有効であることを具体的計算により明らかにした。また,他の系と合わせた総合的な議論を展開した総説論文も発表した。 水の変角モードについては,ノーマル種(HOH)と同位体置換種(HOD)の振動数の挙動の関係を明らかにしたうえで,溶液内において非対称的に相互作用するケースにおける振動数変化の挙動を表す静電相互作用モデルを構築することができた。本報告書の執筆時点において,論文原稿を準備中である。領域内共同研究の結果についても,論文発表に向けて継続して解析を進めている。
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