研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
22H04552
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
若林 里衣 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60595148)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超分子 / 両親媒性ペプチド / タンパク質 / 細胞機能 |
研究実績の概要 |
両親媒性ペプチド(PA)が水中で自己組織化し形成する水圏超分子ポリマーは、PAの化学構造のみならず、超分子ポリマーの形状や物性に応じた機能を発現する。我々はこれまでに、異なる疎水性置換基を持つPAペアを用いることで、その混合比や自己組織化の条件により、相分離や共集合等の混合様式を制御可能であることを示してきた。本研究では、このように混合様式の制御されたPA超分子の機能について、特にタンパク質吸着特性と細胞への作用について解析することを目的としている。 本研究の初年度であったR4年度は、疎水部の構造を様々に変更したPAを合成し、超分子の調製と構造評価をメインに行った。温度条件に応じて相分離・共集合が変化する疎水部にアルキル基とフルオロアルキル基を持つPA群、および疎水部に相補的相互作用部位を導入した共集合型PA超分子群について、疎水部のサイズとペプチド配列が超分子構造に与える影響に関して、班間連携により(A02班:分子シミュレーション、A03班:X線構造解析)評価を進めた。その結果、疎水部サイズによる分子間相互作用のゆらぎの違い等、従来行ってきた分光学的手法や顕微鏡観察では明らかでなかった構造体内部の情報を得ることができた。また、共集合型PA群に関しては、タンパク質の吸着特性に関する調査を進め、静電相互作用以外の相互作用で超分子ポリマー上に各種タンパク質を吸着する特性を持つことが明らかになった。さらに、分子クラウディング剤存在下での超分子形成およびその挙動に関する評価も進めた。 以上の結果に関し、1件の査読付論文発表および13件の学術集会・シンポジウムでの研究発表(内2件は招待・依頼講演、2件は国際学会)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はPA超分子ポリマーの種類、構造、分布等に応じた機能性発現、およびその際の水和構造の違いを評価することを目的としている。R4年度は、その基盤となる様々なPA超分子の調製と構造評価をメインに行った。特に、班間連携により、従来の手法では明らかでなかった分子間相互作用(水素結合)のゆらぎや構造ゆらぎに関する情報が得られた点は、本領域への参画により達成できた点であり大きな成果である。また、分子クラウディング剤存在下での超分子形成、水性二相系における超分子の相選択性等、水圏環境が超分子に与える影響についても評価を進めることができた。さらに超分子の機能として、各種タンパク質の吸着特性を評価し、連続酵素反応の反応速度向上を達成した。一方、超分子の水和構造の解析に関しては、R4年度中に行うことができなかったため、今後の検討課題である。 以上のように、研究計画に従い実験を着実に進めており、これらの結果に関して論文報告および学術集会やシンポジウムでの多数の研究発表を行うことができた。そのため、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、各種PA超分子の種類や水圏環境に応じた水和構造の解析をすすめる。解析には、A02・A03班と連携し、放射光X線分光や赤外分光法を用いる他、分子シミュレーションによって超分子近傍の水分子の動きを評価する。また、超分子へのタンパク質吸着前後での水和構造の変化も同様に評価する。最終的に、PA超分子の細胞作用として、細胞膜受容体へのリガンドを導入したPA超分子を用い、細胞接着性や受容体への結合を介した細胞活性化を指標に機能評価を行う。細胞作用の評価に関しては、A03班と連携して行う。
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