本研究課題では環状有機ホストとカチオン性Ir錯体からなる超分子結晶内部に形成される,1次元水チャネルの水分子の構造および性質解明を進めてきた。これまでの研究で,1次元細孔壁面に形成した水クラスター構造の可視化および1次元水チャネルに含まれる水分子の放射光分光を行っており,水分子と材料界面の距離によって水分子の流動性が異なることを明らかにした。 本年度は1次元水チャネルのプロトン伝導度を測定し,1次元チャネルを形成している水分子の物性を調べた。超分子結晶は高湿度下でのみ安定であったため,結晶取り出し・すりつぶしによるペレット作成・測定ホルダーへの取り付け等の作業は相対湿度95%以上に保った容器に保管しながら測定サンプル準備を行った。温度可変測定の温度上限は35 ℃とし,95% RHから5%ずつ湿度を下げ,各湿度下で温度可変測定を行い,プロトン伝導度とその活性化エネルギーを算出した。その結果,明確な湿度依存性が確認され,35 ℃,95% RHの条件下で中程度のプロトン伝導度が得られた。またその活性化エネルギーは0.5~0.7 eVであり,プロトン伝導がVehicle機構によって進行していることが示唆された。この結果は,細孔中央部に含まれる流動性の高い水分子がプロトンキャリアとなり,プロトン伝導が進行していることを意味している。 有機分子と無機錯体からなる超分子結晶の細孔界面は,水圏で機能する材料界面のモデル構造として理解できる。本研究によって,超分子結晶の細孔界面が界面水の構造・動的挙動・物性の分析ツールとして機能することを明らかにできた。
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