研究実績の概要 |
水が関与する分子集合体の研究は物質・エネルギー変換から薬剤・治療まで幅広い領域を網羅する。他の有機溶媒とは異なり、水は反応場形成の媒体や運び手だけでなく、化学反応における電子・プロトン源など複数の役割を同時に担える特異な溶媒である。一方、分子集合体における光励起過程では励起エネルギーの迅速かつ大幅な消滅という重大な問題点が残されている。したがって、複数分子の会合形成に伴う励起子数の倍増やキラル分子の会合形成による円偏光発光(CPL)を水中で実現できれば、光励起による様々な分野への技術革新に繋がる。本研究では水中での凝集状態の活用で水と光エネルギーが共生可能な材料開発を推進する。 まず、BINOLを配位させたキラルBODIPYの2、6位にフェニル基を導入した一連の3種の誘導体[nPh-B-BODIPY: n = 0, 1, ,2]を合成した。得られたキラルBODIPY誘導体を良/貧溶媒を用いた再沈法によって分子集合体[(nPh-B-BODIPY)m]を作製した。専用基板に滴下し、電子顕微鏡で集合体の形状観察を行ったところ、(0Ph-B-BODIPY)mではファイバー状集合体、(1Ph-B-BODIPY)mでは粒子状の集合体が観測された。粉末X線構造解析では(0Ph-B-BODIPY)mでは特にBODIPY間のπスタッキングに対応するシグナルが観測された。次に、吸収および蛍光スペクトルにおいて、いずれのキラルBODIPY誘導体の集合体のスペクトルでは、スペクトルのブロード化と長波長シフトが観測された。とりわけ(0Ph-B-BODIPY)mの集合体の蛍光スペクトルは単量体と比べて大幅な長波長シフトや複数の発光極大が観測され、多重発光が確認された。さらに、S およびR体の(0Ph-B-BODIPY)mのCPLスペクトルでは単量体より遙かに大きい異方性因子が観測された。
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