2電子の酸化・還元反応を伴うキノン誘導体は、メタルフリーな水素発生電極触媒やリチウムイオン二次電池正極など、エネルギー関連材料への応用が期待されている。本課題では、キノン誘導体とヘテロ芳香族化合物の共重合により、機能部位が凝集せず分散した非晶質共役高分子ネットワークを設計・合成し、白金に代わる水素発生反応(HER: hydrogen evolution reaction)の電極触媒への応用を検討した。また、非晶質共役高分子ネットワークの水圏での特異な水和挙動を見出した。メタルフリーHER触媒に関する先行研究の文献データをもとに、当グループで開発してきた小規模データに対するマテリアルズインフォマティクス(MI)の手法を活用し、HER触媒活性である水素発生過電圧(ΔE)を少数の記述子で予測するモデルを構築した。ベンゾキノン(BQ)と共重合を行うヘテロ芳香族をフラン誘導体とすると、いずれも高活性が予測された。BQといくつかのフラン誘導体の組み合わせで合成を試みたところ、ベンゾオキサゾール(BO)を用いた共重合により非晶質共役高分子ネットワークBQ-BOが得られた。生成したBQ-BOは、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定でΔE = 230 mV(at -10 mA cm-2)を示し、当研究室の先行研究のBQ-ピロール(Py)のΔE = 277 mVをよりも高活性であった。領域内共同研究により、これらの非晶質共役高分子ネットワークBQ-BOとBQ-Pyをテラヘルツ分光によって解析すると、特異な水和状態が観測され、親水性の高さが明らかになった。ナノ構造化による高比表面積、共役骨格による伝導性に加え、親水性がHER電極触媒の活性向上に重要であることがわかった。
|