本研究では,動的分子結合サイトを有するスマート水圏機能材料を設計し,そのエントロピー抑制効果と分子結合能との関係を解明すると共に,動的分子結合能を利用した薬物放出制御への応用を目指している。本年度の研究実績を以下にまとめる。 (i) エントロピー制御によるスマート水圏機能材料の設計:令和4年度に引き続き,温度応答性高分子鎖とポリペプチド鎖からなる分子インプリントゲルおよびナノ粒子を合成し,その構造設計を試みた。 (ii) スマート水圏機能材料の動的分子結合能の検討:温度応答性高分子鎖のコンフォメーションがグロビュール状態とランダムコイル状態,ポリペプチド鎖のコンフォメーションがα-ヘリックス状態とランダムコイル状態などの高分子鎖の自由度(エントロピー)が変化すると標的分子の吸着量も大きく変化することを明らかにした。特に,分子インプリントゲルやナノ粒子のコイル-グロビュール転移やヘリックス-コイル転移を温度変化やpH変化により誘起させ,標的分子である薬物ダプソンや有機化合物ビスフェノールAの吸着量を制御することに成功した。興味深いことに,分子インプリントポリペプチドゲルでは,標的分子の吸着によってα-ヘリックス構造が誘起され,タンパク質のアロステリック制御に類似したシグモイド的な分子吸着挙動を示す可能性も見出した。 (iii) スマート水圏機能材料の動的分子結合能を利用した薬物放出制御:薬物キャリアとして最適なナノサイズの温度応答性ナノ粒子やpH応答性ポリペプチドナノ粒子に薬物を結合させ,温度やpHの変化によって誘起されるコンフォメーション変化を利用した薬物放出のON-OFF制御に成功した。これらの結果から温度応答性高分子鎖やポリペプチド鎖のコンフォメーション変化によってナノ粒子から瞬時に薬物放出できる結合支配型DDSを提案した。
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