研究領域 | 地下から解き明かす宇宙の歴史と物質の進化 |
研究課題/領域番号 |
22H04567
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾崎 秀義 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 助教 (10880007)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ニュートリノレス二重ベータ崩壊 / キセノン |
研究実績の概要 |
今年度の研究において、高圧キセノン液体シンチレータの制作および評価を行う装置が開発された。まず、5気圧までの高圧キセノン液体シンチレータを作成することができる実験装置を製作した。この実験装置で、脱気および窒素バブリングも可能で、PMTを取り付けることでキセノン液体シンチレータの発光量測定を行うこともできた。その結果、KamLAND2で使用予定のLAB液体シンチレータにおいてもキセノンを溶かし込むことでクエンチが起こることが確認できた。 キセノン液体シンチレータ検出器における二重ベータ崩壊のバックグラウンド除去に関しては、キセノン原子核破砕による長寿命崩壊核の除去において、機械学習を用いたPID手法の開発が大きく進展した。グラフニューラルネットワークを用いた機械学習で事象再構成とPIDを同時に行うツールを開発した。この開発にはGPUを用いた。さらに、既存のカムランド禅800フェーズのシミュレーションと実際のデータの比較で、このツールの十分な位置再構成精度とPID性能があることが確認された。将来計画のカムランド2禅の簡易的なシミュレーションにおいても、事象再構成精度とPIDの評価が可能であることが判明した。その結果、将来計画のカムランド2禅でのキセノン原子核破砕バックグラウンドに対するPIDの性能は70%以上と非常にPIDが有効なことが確認できた。また、KL2Zの最終的な感度計算が行えるツールの開発も行った。これにより高圧キセノン液体シンチレータの基礎特性測定結果が得られると、ニュートリノレス二重ベータ崩壊の感度への影響が評価できるようになった。 総じて、本研究によって高圧キセノン液体シンチレータの制作と発光量の評価を行う実験装置を作成した。また、基礎特性の測定結果からニュートリノレス二重ベータ崩壊の探索感度にに対する影響を評価できるソフトウェアツールが開発された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ソフトウェアツール開発は、計画より非常に進んでおり測定ができれば最終的な感度に対する評価を行えるようになっている。 しかし、高圧キセノン液体シンチレータの基礎特性の測定自体は遅れてしまっている。特にキセノンを溶かし込んだ量を測定する方法がガスクロマトグラフィーを用いて行う手法では安定せず、インラインの密度計を購入するか放射線源を用いた密度測定計を作成するかするなどの対処が必要である。また、クエンチは確認できたが解決する方法はまだ見つかっていない。そのため、LAB液体シンチレータ以外にも様々な溶剤や発光剤、波長変換剤などを試す必要があり測定量が増えることが考えられるため、やや計画よりは遅れていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、様々な溶剤、発光剤での高圧キセノン液体シンチレータ作成して、まずは発光量の測定のみを行いクエンチの影響を調査する。クエンチの少ないつまり高発光量の高圧キセノン液体シンチレータをその後の測定候補とする。これは、ニュートリノレス二重ベータ崩壊実験にとってエネルギー分解能が二重ベータ崩壊のバックグラウンドを減らす上で非常に重要だからである。その後、時間特性などの基礎特性の測定を行う。 測定は検出窓のついた高圧XeLS保持容器を使用して、ガンマ線源などを用いて高圧キセノン液体シンチレータを発光させる。検出器としては、時間分解能の良い1.5-inc hPMTを用いてタイムスペクトル測定を行う。測定した時間特性をシミュレーションのインプットとして、機械学習でのPIDや位置再構成を行い、ニュートリノレス二重ベータ崩壊の探索感度を評価することで最適な高圧キセノン液体シンチレータを決定する。最終的な液体シンチレータの成分が決まれば、その成分中の放射性不純物量などの調査も行う。 また、キセノン原子核破砕によるバックグラウンドの正確な見積を高圧キセノン液体シンチレータに対しても行う必要があるため、FLUKAを用いてキセノン原子核破砕シミュレーショ ンも行う。
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