研究領域 | 地下から解き明かす宇宙の歴史と物質の進化 |
研究課題/領域番号 |
22H04570
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
飯田 崇史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (40722905)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 二重ベータ崩壊 / 無機シンチレータ / 高純度結晶 |
研究実績の概要 |
ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の観測は、素粒子ニュートリノの本質に迫り、物質の起源解明に関わるため、現代物理学において極めて重要な研究であると位置づけられる。もし発見されれば現在の宇宙が反物質でなく、物質で形成されている事実を理論的に説明することが出来る。 二重ベータ崩壊は48Ca, 96Zr, 160Gd等、十数種類の特定の原子核のみで観測可能である。そして原子核による理論的不定性があるため、様々な核種での測定が求められる。本研究では、二重ベータ崩壊核である160Gdを含み、かつ大発光量のCe:Gd3(Al,Ga)5O12(以下、GAGG)シンチレータを用いて、ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊およびニュートリノを放出する二重ベータ崩壊の探索を目指している。そのためにはウラン・トリウム系列の放射性不純物を排除したGAGG結晶が必要となり、本研究で超高純度GAGG結晶開発を行っている。 初年度は高純度GAGG結晶開発の第一段階として、結晶原料の精密な調査を行い、4種類の原料のうち酸化ガドリニウム(Gd2O3)が最も不純物を多く含むことを明らかにした。そのため樹脂によるGd2O3原料の純化を試みて、実験の際に最も問題となる不純物である238Uの含有量を一桁以上低減することに成功した。さらに二番目に汚染が多かった酸化アルミニウム(Al2O3)に関しても、高純度品を複数購入し内部不純物量を測定することで、これまでより一桁程度純度が高い原料を入手した。また、これらの高純度原料を用いて、2インチサイズの高純度GAGG結晶を作製することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、初年度で高純度GAGG結晶の開発を行い、二年目で高純度結晶を用いた二重ベータ崩壊探索実験を立ち上げる予定であった。 まず高純度な結晶開発を目指して、主要原料である酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化セリウム(CeO2)の4種の原料に対し、ゲルマニウム半導体検出器を用いて内部不純物量を測定した。その結果、最大のバックグラウンド源となる238Uの不純物量が、Gd2O3は1750 mBq/kg、Al2O3は400 mBq/kg、それ以外は検出限界以下との結果を得た。Gd2O3に関しては、高純度レアアース製品を手掛ける日本イットリウム社に協力を依頼し、イオン交換樹脂を用いたウラン・トリウム除去を試みた。Al2O3に関しては溶解が難しく純化が出来ないため、異なる業者から4種類の製品を購入し、ゲルマニウム検出器測定の結果から最も不純物量の少ないものを選別した。その結果、Gd2O3、Al2O3に含まれる238Uの量は、それぞれ80 mBq/kg以下、30 mBq/kg以下となり、一桁以上の純化に成功した。 この純度の高いGd2O3とAl2O3を用いて、東北大学にてGAGG結晶育成を行い、2インチサイズの結晶育成に成功した。現在はこの高純度結晶の性能評価を行っているところである。以上のように、本研究は当初の予定どおり進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は二重ベータ崩壊探索実験のためのセットアップ構築を目標とする。 今年度作製した高純度GAGG結晶は側面に反射材を巻き、アクリル製ライトガイド、光電子増倍管と組み合わせて、検出器モジュールを構築する。作製した検出器モジュールは筑波大学において、γ線源を用いたエネルギー分解能測定、内部のα線事象を用いた波形弁別能調査などのシンチレーション性能の評価を行う。さらに夏ごろをめどに、岐阜県神岡地下1000mの実験室内に移設し、宇宙線の届かない極低BG環境において、結晶内不純物バックグラウンドの評価を行っていく。地下実験室内には鉛と銅を用いた放射線シールドも構築済みであり、そこへ検出器モジュール、データ取得用回路およびコンピュータ等を持っていくことで実験に必要な環境を整備する。 測定したデータは筑波大学へ持ち帰り詳細に解析を行う。昨年度までにGEANT4のシミュレーションを用いたバックグラウンドモデルの構築を進めており、そのモデルを実データにフィットすることでウラン・トリウム、およびその上流・下流がどの程度結晶内に存在しているかの、詳細な解析が可能である。得られたバックグラウンド評価結果から、将来実験における160Gd二重ベータ崩壊探索の感度を見積もる。さらに並行して、高純度結晶の大型化(重量比で約4倍)を検討していく。
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