公募研究
本研究では、(3+1)次元の高次元対称性を有するチムニーラダー型化合物を対象とし、詳細な結晶構造解析と物性測定を通して、非整合複合結晶特有のフェイゾン歪が織りなす多彩なナノ組織の形態とそのダイナミクスを明らかにするとともに、ナノ組織がフォノン物性(特に格子熱伝導率)に及ぼす影響を解明する。本研究は更に、実用熱電材料の設計指針として、新しいフォノン散乱機構(フェイゾン歪の適用)を提案する。フェイゾン歪による特有のナノ組織を形成させることで、ナノからミクロに至るマルチスケールでフォノンを効果的に散乱し、キャリア伝導は妨げずに格子熱伝導率のみを選択的に低減できる、画期的な高性能熱電材料の実現を先導する。具体的には、(1) チムニーラダー型化合物のフォノン輸送第一原理計算、(2) 非整合ナノドメイン分裂の形成メカニズムの解明、(3) 微細組織と格子熱伝導率の相関の把握、(4) 不規則ドメインの形態制御による低熱伝導率化、の4項目を遂行する。以下に、項目(3)で得られた知見を既述する。MnSi1.73 単結晶試料の熱拡散率、比熱および全熱伝導率の温度変化を測定したところ、結晶構造の異方性を反映して、熱拡散率は導電性の高いab面内の方が高く、500℃以上の温度ではいずれの方向でも両極性拡散による増大がみられた。一方、比熱に関してはc軸方向が高く、また500℃以上の温度ではc軸方向のみに減少傾向がみられた。全熱伝導率は200-600℃の温度範囲でほぼ同程度であったものの、それ以外の温度域ではab軸方向の方がやや高い傾向が認められた。
2: おおむね順調に進展している
まず、基本物性を深く理解するためにマンガンケイ化物の良質単結晶を作製し、輸送特性の異方性を詳細に調べた。元来持つ異方的結晶構造から予想されたように、正方晶のa軸方向に電気伝導性が高くゼーベック係数が低いことが確認された。熱電性能指数zは、ゼーベック係数の2乗に電気伝導率を乗じ、熱伝導率で割った量であり、それぞれが異方性を有することから、z自体の異方性はa軸方向とそれに垂直な方向で、2程度に収まった。続いて、MnサイトまたはSiサイトを種々の元素で部分置換した試料を作製し、室温における音速の異方性を測定した。音速の温度変化測定が可能な計測系の構築を試みており、今年度は完成に至らなかったため、室温における縦波と横波のみを測定した。無置換試料に対して、部分元素置換した試料は縦波・横波とも大幅な減速がみられ、元素置換が格子熱伝導率に大きく寄与することが示唆された。更に、Mnサイトを2種類の元素で部分置換した試料を合成し、その固溶範囲や結晶構造の変化および熱電特性を測定した。Siサイトに対しても、部分置換が格子熱伝導率に及ぼす影響を調べた。まず、Alで部分置換した固溶相試料を合成し、固溶限の確認や微細組織観察を進めた。また、n型素子の候補として着目した、チムニーラダー型鉄ゲルマニウム化物FeGeγ (γ ~1.5) の合成条件を検討をした。無置換単結晶試料の微細組織観察を行ったところ、第二相として生成するMnSi相の形態が、熱処理条件によって大きく変化することを確認し、またそれに伴ってγ値の異なる円形組織が形成されることを発見した。さらに、MnサイトのVやRuによる部分置換や、SiサイトのAlによる部分置換を試み、出現するナノ組織形態と熱電特性の関係について評価を進めている。
本研究の目的達成に不可欠な具体的課題として、(1) マンガンケイ化物のフォノン輸送第一原理計算、(2) 非整合ナノドメイン分裂の形成メカニズムの解明、(3) 微細組織と格子熱伝導率の相関の把握、(4) 不規則ドメインの形態制御による低熱伝導率化、の4項目を遂行する計画であり、これまでに(1)から(3)までをほぼ終了した。2023年度は項目(3)-(4)を遂行する。項目(3)および(4)の具体的な計画は以下のとおりである。(3)は当初予想以上に組成や熱処理条件のバリエーションが多く、未実施のものをさらに実施しつつ、(4)を進める。MnサイトのVまたはRu置換に加えて、優先順位の高いCr置換を行い、組成と熱処理条件が微細組織に及ぼす影響を纏める。また、n型候補材料のFeGeγの良質試料を合成し、併せて他元素による部分置換を行い熱電特性の最適化を進める。後半では、本研究で特性が最適化されたp型素子とn素子を用いて、素子形状や対数を最適化して発電モジュールの設計を試みる。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
Journal of Alloys and Compounds
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