公募研究
準結晶は1984年にAl-Mn合金で発見されて以来、合金系を中心に研究が進展してきた。それまでの結晶学を革新しただけでなく、2010年代に入ってから超伝導 [Kamiya et al, Nat. Comm 2018]、反強磁性 [Tamura et al., Phys. Rev. B 2010]、量子臨界現象 [Deguchi et al, Nat. Mater. 2012]などが国内研究者らによって次々と発見され、機能開拓が進んでいる。さらに材料化へ向う発展性を担保するためには酸化物系の開拓が必要とされている。「酸化物準結晶」とは、イオン結合が支配的でさらに準周期性を持つ構造を持つ物質を指すと思われる。しかし、これまでの研究により、そのような安定な物質を実際に合成することはかなり困難であることが明らかになった。そのため、最終目標である、安定な酸化物準結晶を合成する前段階として金属結合が支配的で酸素を含有する金属亜酸化物に着目した。通常、金属亜酸化物は、多数の電気陰性度の低い金属元素からなる金属クラスターと、そのクラスター間に挿入された酸素を構造的な特徴とする。そのため、化学的性質は酸化物よりもむしろ合金に近く、従来の合金系準結晶の知見を活用できる可能性がある。また、Ba-Ti-O系の薄膜で発見された酸化物準結晶は、合成条件などから見て、Ti-Ba-O系の亜酸化物である可能性があるとされる。しかし、Baは化学的に不安定であるため、Ti-Ba-O系の亜酸化物の安定バルク体の合成はかなり困難と予見され、Baを他の元素に置き換える必要があると考え、本研究では、Ti-M-O系に注目し、これまでM=GaおよびGeについて探索的な実験を進めてきた。
2: おおむね順調に進展している
直近の実験例として、Ti-Ge-O系について述べる。例えば、安定バルク体Ti5Ge3、Ti6Ge5、TiGe2の局所的な配位状況については、それぞれGeTi9、GeTi8、GeTi5であることがわかっているが、正20面体構造を持つことが期待されるGeTi12を得るためには、よりTiリッチな組成域を探索する必要がある。しかし、Ti-Geの平衡状態図には、このような安定相が存在しないため、高圧合成法を用いて酸素を導入して、新しい化学相の安定化を検討した。なお、酸素の導入によって初めて安定化する合金は、非侵入型の亜酸化物と呼ばれ、既存の合金に酸素が侵入した侵入型の亜酸化物とは通常区別される。これまでのところ、最大で6万気圧までの圧力範囲において、M=GaおよびGeにおける非侵入型亜酸化物の新規合成は達成されていない。このため、Mを他の元素に置き換えて、引き続きよりTiリッチな非侵入型亜酸化物の探索を進めている。
現在、合金系準結晶における酸素侵入に関する知見が十分でないため、既存の合金系準結晶に酸素を侵入させた侵入型亜酸化物についても、準結晶のどの部分に、どのように酸素が取り込まれるかを調査するため、高酸素圧処理を検討している。高圧合成法を用いることで、密閉容器の酸素発生剤の量を調整することができ、通常の酸化雰囲気炉よりもかなり高い酸素分圧を発生させて熱処理することができる。このため、高圧下での熱処理条件や母相となる最適な準結晶の選択について検討を進めている。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 2件、 査読あり 11件)
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