準結晶あるいはその近似結晶(準結晶に似た結晶構造ではあるが周期的な結晶)を理論的に取り扱うためには、実空間の非一様性をうまく取り入れた計算が必要である。本研究では、準結晶やその近似結晶の物性を計算するために、効率的なシミュレーション手法を開発することが目的である。その為、近年我々が開発している自己学習ハイブリッドモンテカルロ法という手法を用いて、機械学習分子シミュレーションを行うこととした。自己学習ハイブリッドモンテカルロ法では、効率的にニューラルネットワークを作ることができるため、得られたニューラルネットを機械学習分子動力学シミュレーションに用いることで、巨大な系を高速にシミュレーションすることが可能である。昨年度までの公募研究「準結晶における機械学習分子シミュレーション手法の確立とその有限温度物性の解明」においては、自己学習ハイブリッドモンテカルロ法を準結晶および近似結晶に適用し、ニューラルネットワークの構築を試みた。本年度から始まったこの公募研究においては、より具体的に、実験で測定されている比熱を、シミュレーションで再現することを試みた。
対象とする物質系として、計画班の木村グループが合成しているAl-Pd-Ruを選んだ。このAl-Pd-Ruは準結晶のほかに、近似レベルが異なる二種類の近似結晶が合成されている。また、理論的にはもう一つの近似結晶の存在が知られている。そこで三種類の近似結晶においてニューラルネットワークの構築を行い、比熱をシミュレーションで再現することを試みた。計画当初は比熱をエネルギー期待値の温度微分として定義し計算を試みていたが、温度微分は数値微分になってしまうことと、エラーバーが大きすぎることが問題となった。そこで、エネルギーの揺らぎとして比熱を定義し、エラーを詳細に見積りながら、定量的に比較可能なシミュレーションを目指している。
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