申請者らオリジナルの第一原理基統計熱力学計算プログラムabICSを、化学ポテンシャル一定のグランドカノニカルモンテカルロ計算に対応させるように拡張し、全固体Liイオン電池構成材料に適用した。具体的には、Liイオン電極活物質のLiCoO2に対する計算を行い、実験で観測される電荷蓄積量(State Of Charge; SOC)とLiポテンシャル(電極電位)の対応関係を再現することに成功した。 一方、電解質材料La_xLi_yNbO3において、abICSを用いたLi配置のモンテカルロサンプリングを試みたところ、Li格子配置のうちのほとんどが構造的に不安定であり、別の配置に自発的に移動してしまうことが分かった。abICSに実装されている格子モンテカルロ計算では、そのような自発的なサイト間の移動が考慮できていない。この問題は、事前に不安定な配置をサンプリングから除外できれば解決できるため、機械学習による不安定配置予測を試みた。構造の記述子としてSOAP (Smooth Overlap Of Atomic Population)やACE (Atomic Cluster Expansion)を用い、約90%の予測精度を実現することができた。これをモンテカルロサンプリングと組み合わせるためのabICSの改造も行い、テスト計算を行ったところ、サンプリングは実行できたが、そもそもほとんどの配置が不安定であるため、サンプリング効率が非常に悪いことが見て取れた。これは、検討した他のLiイオン伝導体でも同様であった。このような場合の効率的な配置サンプリング手法については今後の課題である。
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