本研究では、高安全性、高耐久性が期待される全固体電池の高出力化を実現するために、電子導電性に優れたルテニウム系正極材料に着目し、ルテニウム系正極材料の全固体電池への展開、正極コーティングによるバルク型全固体電池の特性向上、高容量高出力正極材料の創出のための設計指針を明らかにすることを目的として研究を行った。 令和5年度は研究計画に基づき、ルテニウム系の正極材料としてLi2RuO3とMn固溶Li2RuO3を、酸化物系の固体電解質としてガーネット型のリチウムイオン導電体を選択し、共焼成による正極/固体電解質複合体の作製を試みた。令和4年度に見出した緩衝層について、ゾルゲル法にて導入を試みた。SEM観察およびEDX分析の結果、固相法で導入した試料と比較して、緩衝層を薄く均一にルテニウム系正極材料の粒子表面に導入できたことが明らかとなった。また、ルテニウム系正極材料/緩衝層の複合体を正極に用いて、液系のコインセルを作製し、得られた正極複合体が電気化学的に機能することを確認した。しかし、正極にルテニウム系正極材料/緩衝層複合体、固体電解質としてアルジロダイト型硫化物、負極にリチウム金属を用いて全固体電池を作製して、充放電測定をしたところ、充電、放電とも容量が確認できなかった。緩衝層に用いた酸化物のイオン導電率が小さく、セル抵抗が大きくなったことが原因と考えられる。今後、緩衝層のイオン導電性の改善により、全固体電池として性能の向上を進める。
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