研究領域 | 蓄電固体デバイスの創成に向けた界面イオンダイナミクスの科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04625
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
土屋 敬志 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (70756387)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 固体イオニクス / ナノイオニクス / 磁気異方性 / 電気二重層 / ニューロモルフィック |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,電子材料/固体電解質界面近傍における電気二重層効果と酸化還元反応,及びそれらの共存・相互作用の結果として生じる電荷キャリア(イオン・電子)蓄積現象を詳細に調査し,飛躍的に高い密度の電荷キャリア蓄積能・高速イオン輸送能を固固界面で発現させること,それを利用し磁気特性を劇的に変調し人工知能機能を発現する新デバイスを創製することである.今年度は強磁性NiCo2O4薄膜へのプロトン挿入に基づく酸化還元反応によりNiCo2O4薄膜中の電子キャリア密度を大幅に制御することによって垂直磁気異方性を制御可能な新デバイスを開発した.磁化方向は変化しなかったが,異方性磁界を5%の範囲で制御することができた.本内容について原著論文として出版した.また,ダイヤモンド/リチウム固体電解質界面の電気二重層効果によって生じる非線形応答を利用して,人間の脳が有する秩序とカオス(混沌)の間の「カオスの縁」と呼ばれる状態を再現することで高性能なニューロモルフィック計算が可能であることを見出した.同様の計算方式について従来報告されている様々な小型デバイスと時系列データ予測についての性能を比較したところ,最も高い計算精度が得られることがわかった.本内容について原著論文として出版した.さらに,こうしたダイヤモンド/リチウム固体電解質界面の電気二重層効果におけるリチウムイオンと電子キャリアの応答に関わる緩和時間を,異なる種類のリチウム固体電解質薄膜を数オングストローム程度の厚さで挿入することで数桁に渡って制御することが可能であることを見出した.無機酸化物リチウム固体電解質の電気二重層容量は大きなゲート電圧依存性を有することが示唆され,特に正のゲート電圧印加状態における電気二重層容量が材料に強く依存することによって緩和時間を制御することが可能となると考えられる.本内容について原著論文として報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究実施計画は(1)固固界面制御による高密度電荷キャリアー蓄積能発現,および(2)固固界面の高密度電荷キャリア蓄積能を利用する新機能デバイスの創製の2項目からなる.まず,(1)についてはI.電子材料と種々の固体電解質との界面での電荷キャリアー蓄積量の定量評価とⅡ.電気二重層効果と電子物性変調機能の相関の調査を予定していた.I.についてLi-Si-Zr-Oを初めLi3PO4,Li-Nb-Oなどの異なるリチウム固体電解質を成膜し検討を行った.また,Ⅱ.についてこれらのリチウム固体電解質とダイヤモンドとの界面の電気二重層におけるキャリア密度変調速度についてパルス応答を利用して調査したところ,Li-Nb-O薄膜/ダイヤモンド界面での電気二重層における充放電速度は高速で緩和時間にして200マイクロ秒程度であるのに比べて,Li3PO4/ダイヤモンド界面の電気二重層の充放電速度は非常に遅く60ミリ秒もの長い緩和時間を示すことがわかった.さらに,こうした差異は正のゲート電圧側における電気二重層容量が材料に強く依存することによると考えられた.この様に界面制御による電気二重層効果,およびその電子物性変調機能については想定より多くの知見が得られている.また,(2)についてはプロトン挿入に基づいて酸化還元反応を用いて垂直磁気異方性を制御する新デバイスのみならず,電気二重層効果に起因する非線形応答を利用する高性能なニューロモルフィックデバイスも開発することができた.以上は計画を上回る進展であった.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策について(1)固固界面制御による高密度電荷キャリアー蓄積能発現,および(2)固固界面の高密度電荷キャリア蓄積能を利用する新機能デバイスの創製の2項目に分けて述べる.まず(1)については,これまでリチウム固体電解質のうち,室温成膜が可能なアモルファス薄膜を中心に検討を行ってきた.そこで今後は高温成膜による結晶性のリチウム固体電解質についても同様に検討を行っていく.その際,ゲート電極についても高温成膜を行うことで固体電池系と共通の電極材料を成膜する.こうすることで,従来実験結果を固体電池系と比較することが困難だった問題を解決する予定である.次に(2)については,今年度見出した酸化還元反応に基づく磁気異方性制御法をニューロモルフィック計算に応用することで高性能な情報処理を行う新デバイスを開発する。
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