研究実績の概要 |
本研究は、腸管上皮細胞内シグナルのプラットフォームであるp62構造体が、隣接細胞の損傷を感知することで形成される機構と、その形成の「場」が加齢によって変化して組織の恒常性を失わせる分子機構を明らかにし、加齢依存的な炎症性疾患の原因理解を目的とした。我々はショウジョウバエをモデルとして腸管上皮組織におけるオートファジー機能を研究する過程で、腸管上皮細胞の損傷が惹起する損傷応答の分子機構は、p62構造体をシグナルプラットフォームとするシグナル活性化が、細胞非自立的に幹細胞分裂を惹起することであり、このp62構造体が老齢期には局在を失って蓄積し、腸管バリア破綻の原因となる事を明らかにしてきた。本研究はこれらの知見に基づき、損傷細胞の感知が隣接細胞にp62構造体を形成させる機構、および加齢腸管においてp62構造体が上皮細胞の管腔側全体に局在を変える分子機構の解明を行った。その結果、腸管上皮組織の損傷によって膜貫通型ロイシンリッチリピート因子Capriciousの発現が上昇すること、この情報が隣接細胞に発現しているGPCRであるMthl2によって受容され、G12/13 protein Cta, Rho, Rokの活性化を介して、頂端側に位置するアクトミオシン活性化をおこすこと、これがp62構造体の3細胞接着部位付近での形成をおこすという分子機構を明らかにした。これと平行して老化腸管上皮に生じる異常をRNAseq解析により検討し、老化の極めて初期にアクトミオシン制御因子の発現が上昇し、これがミオシンの局在異常と細胞骨格異常をおこし、p62構造体の場を変容させることを明らかにした。以上の成果は、極性細胞におけるp62構造体形成の場の分子機構解明に加え、その老化初期における破綻が形成の場の変容、その結果としてのバリア機能破綻をおこすという、組織老化機構に新たな視点を与えるものである。
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