公募研究
細胞競合とは、組織中で隣り合う細胞間で生体内環境への適応度が高い細胞(勝者)が低い細胞(敗者)を排除する現象であり、細胞集団のクオリティを最適化する恒常性維持機構として機能していると考えられる。研究代表者はこれまでに、ショウジョウバエ遺伝学を用いた解析により、勝者細胞に近接した敗者細胞では細胞非自律的にオートファジーが誘導され、これにより細胞死が引き起こされることを見いだしてきた。しかし、どのようなメカニズムで敗者細胞特異的にオートファジーが誘導されるのかは不明であった。そこで本研究では、研究代表者が独自に確立したbantamをモデル系とした細胞競合の遺伝学的解析を行うことで、細胞競合時に勝者細胞に近接した敗者細胞でオートファジー活性が上昇するメカニズムを明らかにすることを目的とした。令和4年度は、細胞競合時のオートファジー誘導メカニズムを明かにするための2種類のショウジョウバエ遺伝学的スクリーニングを実施した。microRNA bantamの過剰発現細胞は、周囲の正常細胞(敗者)にオートファジー依存的な細胞死を誘導して細胞競合の勝者となる。この知見をもとに、(1)bantam過剰発現細胞の周囲の正常細胞のオートファジーが抑制される変異を探索するスクリーニングを行った結果、3つの遺伝子変異を同定することに成功した。一方、(2)bantamのターゲット遺伝子を一つずつノックダウンして周囲の正常細胞にオートファジーが誘導される系統を探索するスクリーニングを行った結果、オートファジーが誘導される系統は得られなかった。この結果をもとに、現在bantamの複数のターゲット遺伝子を同時にノックダウンする系を構築する準備をしている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、細胞競合時に勝者細胞に近接した敗者細胞でオートファジー活性が上昇するメカニズムを明らかにすることを目的とする。令和4年度は、オートファジー誘導メカニズムを明かにするため、bantamを過剰発現系を用いたショウジョウバエ遺伝学的スクリーニングを実施した。その結果、勝者ー敗者境界面のオートファジーを抑制する3つの遺伝子変異を同定することに成功した。今後は、これら遺伝子変異を誘導した際の詳細な遺伝学的解析を進めることで、細胞競合におけるオートファジー誘導メカニズムを明かにできると考えられる。また、bantamのターゲット遺伝子を1つずつノックダウンするスクリーニングでは、周囲の正常細胞にオートファジーを誘導する系統は得られなかったが、複数のターゲット遺伝子を同時にノックダウンする実験系を構築し、現在準備を進めている。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
遺伝学的スクリーニングで得られた3つの遺伝子変異をそれぞれbantam過剰発現細胞内に誘導し、詳細な遺伝学的解析を進める。一方で、bantamによる細胞競合を誘導した組織のRNA-seq解析を行うことで、bantam過剰発現細胞内で発現変動する遺伝子群を探索する。スクリーニングの結果とRNA-seq解析の結果を相互にフィードバックしながら遺伝学的解析を進めていく。さらには、bantamの複数のターゲット遺伝子の同時ノックダウンを行い、周囲の正常細胞のオートファジーを誘導する十分条件を明らかにすることで、細胞競合におけるオートファジー誘導メカニズムの全貌を明かにしていく。
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炎症と免疫 3月号
巻: 31 ページ: 14-17
https://igakilab.lif.kyoto-u.ac.jp/