研究実績の概要 |
根冠は、植物の根の先端をキャップ状に覆っており、細胞層の新生と剥離を周期的に繰り返しながら、形態と機能を維持するというユニークな組織である。本領域の第一期公募研究において、オートファジーが根冠最外層が剥離する直前に活性化して、細胞内構造を再構成して、精密な剥離を促進することを明らかにした。植物細胞は細胞壁を介して互いに強固に接着しているために、根冠細胞の正常な剥離には細胞壁の適切な改変が重要である。しかし、細胞内の自己消化機構であるオートファジーが、細胞外の細胞壁の改変を促進する機構は不明であった。そこで、本研究では、時空間特異的なオートファジーによる根冠細胞の精密な剥離の制御機構を明らかにするために、細胞壁改変酵素に着目した研究を進めた。 申請者らのグループが見出した細胞壁改変酵素(RCPG)は、根冠最外層で特異的に発現し、分泌経路を経て細胞壁へと輸送されて、根冠剥離に必要な細胞壁の改変を制御する(Kamiya et al., 2016)。申請者らはオートファジー変異体において蛍光タンパク質で標識したRCPGが野生型よりも多く蓄積していることを見出した。RCPGタンパク質の蓄積量は顕著に増加するのに対して、RCPG遺伝子の転写活性は変化していなかったことから、オートファジーはRCPGの転写後制御に関与することが示唆された。また、根冠の剥離異常とRCPGの過剰蓄積はいずれも根冠最外層特異的にオートファジー活性を回復させることで回復したことから、根冠最外層におけるオートファジーがRCPGの局在や量を適切に調節することで、根冠細胞の精密な細胞剥離を制御している可能性が示唆された。
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