本研究では、マウス初期胚発生過程で機能する代謝系を特定し、エピゲノム制御および胚発生制御への寄与を明らかにすることを目的とした。代表者および共同研究者の大我政敏博士(山梨大学)らはこれまで、初期胚のトランスクリプトームデータを代謝制御の視点から再解析し、初期胚発生期にSer-Gly-one-carbon metabolism (SGOC)という、メチル化基質であるS-Adenosylmethionine(SAM)の合成に関わる代謝経路が亢進していることを見出した。さらなる予備研究により、初期胚におけるSGOCの阻害が胚発生の停止やヒストンメチル化の低下を引き起こすことを発見した。本研究では、SGOCがエピゲノム制御を介して初期胚発生に寄与する分子メカニズムを解明することを目標とした。 本年度は、これらの代謝経路の活性変化がどのような仕組みでこのような制御を引き起こすかに焦点を当てて研究を進めた。先進ゲノム支援を受けて2細胞期胚のRNA-seq解析を行い、SGOC経路の阻害により発現変動する遺伝子群を単離し、特定の細胞機能に関わる遺伝子が顕著に変化することを見出した。また、SAMの添加によりそのような遺伝子発現変動が抑制されることや、遺伝子発現変動を抑制することで胚発生の進行が回復することなどを突き止め、これらの代謝ーエピゲノムー遺伝子発現の制御軸が胚発生の進行に必要であることを明らかにした。 不妊治療では胚は専ら体外で培養されるため、栄養環境の人為的操作が容易である。本研究を基に培養環境を最適化することでエピゲノムをより良い状態へ変化させ、次世代の健康や生殖細胞の質を高める研究につながることが期待される。
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