倍数性(ゲノムセット数)の変化が胚発生に与える影響は生物種によって異なる。特に哺乳類の一倍体胚は胚盤胞到達前に多くが発生停止する がその理由はほとんどわかっていない。細胞にとって倍数性(DNA量)と細胞サイズ(細胞質量)のバランスは重要であり、体細胞では細胞周期の間期に細胞が成長してバランスを取る。しかし卵割期は細胞の成長が起こらないため、倍数性が変化した胚は、細胞サイズとのバランスの崩れが修正されないまま発生を進めることになる。本研究は細胞サイズ(半分・通常・倍)、倍数性(一倍体・二倍体・四倍体)を多様な組み合わせで変化させたマウス胚を作出して胚盤胞までの発生を追い、「ゲノム倍数性」「細胞の大きさ」「両者のバランス」の変化がそれぞれどのような発生異常を引き起こすか、その原因は何かを明らかにすることで、全能性の獲得・発揮には何が重要なのかを解くための知見を得ることを目的とする。本年度は以下の結果を得た。 1)2つの未受精卵を電気融合して得た倍サイズ卵から、二倍体、四倍体の胚を作出した。倍サイズ二倍体胚は、通常サイズ一倍体胚と類似した分裂期異常と低い胚盤胞発生率を示した。倍サイズ四倍体胚は、通常サイズ二倍体胚と同等の高い胚盤胞発生率を示した。 2)通常サイズ一倍体胚が第二、第三卵割時に示す分裂異常により二倍体となった割球は発生停止するが、桑実胚期以降に生じたゲノム倍加は細胞周期停止を引き起こさないことが示唆された。 3)半サイズ一倍体胚は桑実胚までは正常発生するが、桑実胚以降に一部の細胞が分裂異常の結果二倍体細胞となった。
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