全能性を持つ受精卵は、卵子と精子が接合(受精)することで生じる初期発生におけるスタートの細胞である。しかしながら、卵子は減数分裂過程で染色体分配異常を起こしやすく染色体数異常を持った卵子が多いことはよく知られており、これは、受精後の全能性獲得において大きなリスクである。そこで、申請者は受精卵が初期発生の過程で染色体分配異常から回復する何らかのメカニズムがあるのではないかと考え実験を計画した。まず、受精卵および2細胞期胚の正確な染色体分配異常頻度の解析を行った。受精卵および2細胞期胚を用いて、シングルセル(割球)によるDNAのコピー数解析(scRepli-seq)を行った。遺伝的に離れた2系統、C57BL/6とMSM/Msマウスの卵子と精子を用いて受精卵を作成し実験に用いた。NGSデータの解析により、受精卵の約10%が卵子由来の染色体分配異常を持っていること、一方で、2細胞期胚では、染色体分配異常のほとんどが片方の割球にのみ見られ、もう一方の割球は正常になっていることが明らかとなった。 受精後、精子と卵子のゲノムは雌雄の前核を形成し、前核は成長しながら受精卵の中央へ移動し雌雄のゲノムを含む1つの紡錘体を形成する。異常からの回復メカニズムとして、減数分裂時に分配異常を起こした余剰な染色体は微小核を形成し、微小核は第一卵割時に受精卵の中央に移動せず、紡錘体に取り込まれないことで異常から回復している様子がライブセルイメージングにより観察された。この移動のメカニズムは微小核中に含まれる染色体の本数による核膜の形成に依存していることも示唆されている。 これらの結果は、減数分裂時の余剰染色体の多くは、微小核により受精卵の端に置き去りにすることで2細胞期になる際に、片方の割球にのみ異常を集め、もう一方の割球は正常な染色体を持ち全能性を維持するメカニズムが存在することを示唆している。
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