研究領域 | 全能性プログラム:デコーディングからデザインへ |
研究課題/領域番号 |
22H04675
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
久保 直樹 九州大学, 生体防御医学研究所, 特任講師 (50914280)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エピゲノム / ゲノム3次元構造 / エンハンサー・プロモーター相互作用 / 初期胚 / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
マウス初期胚発生における、ゲノム3次元構造の変化を解析するため、今年度は高解像度シングルセルHi-Cの技術開発に取り組んだ。初期胚形成過程での2細胞、4細胞、8細胞、桑実胚を回収し、マウスピペットで一細胞にばらした後に、ライブラリ作成を行なった。その過程では、一細胞から得られるライブラリ収量、シークエンス情報量が不十分であることが多く、現在数十から数百細胞レベルでのライブラリ作成も進めている。ライブラリ作成過程では、DNAの断片化、平滑末端化、ライゲーション、そしてそれらのステップを経る度に、その酵素活性を不活性化する操作など、あらゆるステップで反応を十分行う必要があるが、通常の体細胞と違い、細胞質が格段に厚いため、条件検討を進めている。一方で、米国で開催されたCold spring harbor meetingに出席した際、シークエンス情報量が少なくてもデータ解析で高精度のHi-Cピーク抽出ができるよう、深層学習を用いた解析法に触れ、その開発者とコンタクトをとり、現在、共同研究を協議中である。 また今年度、初期胚以外にも全能性のに関連して、生殖細胞やES細胞を用いた研究も進めた。一つは、遺伝子制御に必須のゲノム3次元構造であるエンハンサー・プロモーター相互作用について、エンハンサー形成に重要なヒストン修飾のH3K4me1の制御機構とゲノム3次元構造の関連を調べている。H3K4me1修飾酵素活性を持つMLL3/4のエンハンサー・プロモーター相互作用における役割を明らかにする中で、他にMLL2においてもそのエンハンサー形成に重要な役割を明らかにしている。また、受精後のリプログラミングで重要なDNAメチル化修飾においても、その修飾酵素のDNMT3A,3Lのde novoメチル化における、ADDドメインの協調した働きを明かすため、遺伝子改変マウスを作成し解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初期胚形成過程での2細胞、4細胞、8細胞、桑実胚を回収し、一細胞にばらした後に、高解像度シングルセルHi-Cのライブラリ作成を行なったが、一細胞から得られるライブラリ収量、シークエンス情報量が不十分であることが多く、DNAの断片化、平滑末端化、ライゲーション、そしてそれらの酵素活性を不活性化する操作など、通常の体細胞と違い、細胞質が格段に厚い初期胚細胞に必要な条件検討に予定より時間を使っている。 こうして初期胚を用いた解析に時間がかかっているため、一方でES細胞や生殖細胞を用いた全能性やゲノム3次元構造に関連する研究も行なっている。こちらでは遺伝子制御に必須のゲノム3次元構造であるエンハンサー・プロモーター相互作用に関連して、エンハンサー形成に重要なヒストン修飾のH3K4me1の制御機構と、ゲノム3次元構造の関連をES細胞の分化過程で調べ、また受精後のリプログラミングで重要なDNAメチル化修飾においても、その修飾酵素のDNMT3A,3Lのde novoメチル化における、ADDドメインの協調した働きを明かすため、遺伝子改変マウスを作成し解析を進めている。 また所属研究室の教授退任と研究室縮小に伴う人手減少の中、移転作業、そして自身のポスト獲得への業務に、ある程度の時間を割いていることも、遅延の要因の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
初期胚の研究では、引き続き、高解像度シングルセルHi-Cのライブラリ作成の条件検討を続けるが、一方で、シークエンス情報量が少なくても高精度のHi-Cピーク抽出を行い、研究がすすめられるよう、深層学習を用いた高解像度Hi-Cピーク解析法を導入する。現在、同解析法を開発した米国のグループと共同研究を協議中である。また1細胞での解析が困難な場合も考慮し、数十から数百細胞レベルに条件を緩めたライブラリ作成も行なっている。数十から数百細胞レベルでも、上述の高解像度Hi-Cピーク解析法を導入すれば、初期胚でのエンハンサー・プロモーター相互作用を同定することが可能と考えている。またゲノム3次元構造に重要なCTCFタンパクの初期胚における働きについて、in vivoで使用可能となったauxin技術を用いてCTCFを分解、消去する考えだが、マウスの譲渡等で時間がかかる可能性もあるため、一方でYY1など、siRNAでも十分タンパク消去効果が望める他のゲノム3次元構造に重要なタンパクに焦点を切り替えることも検討している。また上述のように、初期胚以外にES細胞や生殖細胞を用いた全能性研究として、ES細胞分化過程のエンハンサー・プロモーター相互作用とエンハンサー活性や、生殖細胞のDNAメチル化修飾機序に関する研究も進めている。
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