研究代表者の先行研究において、全能性が獲得される初期の着床前期に特異的に発現する遺伝子群(全能性細胞特異的遺伝子)が同定されている。これらの遺伝子の中で、Klf17、Btg4、Trim61、Pramef12、およびRfp14がMuERV-L陽性ES細胞で高い発現を示すことも明らかにされている。また、MuERV-L陽性細胞の全てが全能性を示さない、すなわち、MuERV-L陽性細胞には全能性を有する亜集団が存在することがわかっている。そこで、本研究では、MuERV-L陽性細胞において不均一に存在する全能性細胞特異的遺伝子を発現する亜集団を可視化し、分化能を詳細に検討することにより真の全能性細胞を同定することを目的とした。 まず、Klf17のストップコドンを削除し、自己消化ペプチド、VenusのcDNA、poly Aシグナルを付加したノックインベクターをMuERV-Lの発現をtd-Tomatoの蛍光により可視化できるES細胞に遺伝子導入し、ノックインされたES細胞を選別した。このES細胞を用いて培養条件を検討したところ、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤であるTSA(Tricostatin A)により効率よくMuERV-LとKlf17の発現が誘導されることが明らかとなった。MuERV-L陽性細胞、Klf17陽性細胞、およびMuERV-L/Klf17共陽性細胞の3種類のES細胞に含まれる細胞集団の分化能について桑実胚移植実験により検討した結果、MuERV-L陽性細胞だけが、内部細胞塊と栄養外胚葉への分化能を有することが示された。
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