公募研究
本年度は、ヒストン脱メチル化酵素Utxによる神経幹細胞の非ゲノム制御について解析を進めた。神経幹細胞の増殖が正しく制御されることは、適切な数のニューロンを産生し、機能的な脳を構築するために必須である。また、脳室に面する脳室体に存在する神経幹細胞は、脳室の制御などを介した脳形成にも寄与する。申請者は抑制性のエピゲノム修飾であるH3K27me3の脱メチル化酵素であるUtxをSox1-Creマウスを用いて神経系で特異的にノックアウトする実験を行ったところ、出産は正常だが、Utx KOマウスは生後1日までにほとんどが致死になることを見出した。致死性の原因を調べるため、胎児の脳切片を作成し観察したところ、脳室が異常に拡張し、水頭症となっていることを見出した。また、神経幹細胞の増殖が有意に低下し、産生されるニューロンの数が低下していた。以上のことから、Utxは神経幹細胞が正しく増殖すること、そして脳室が適切なサイズに保たれることに重要であることがわかった。それではどのようにしてUtxは神経幹細胞を制御しているのだろうか?そのことを調べるために、Utxノックアウトマウスでの神経幹細胞を回収し、RNA-seqとH3K27me3の分布を調べるためのCUT&Tag実験を実施した。すると、UtxをノックアウトするとDNA複製に関わる遺伝子の発現が低下していること、また発現が低下している遺伝子座において抑制性エピゲノム修飾H3K27me3が増加していることを見出した(Koizumi, FASEB J, 2022)。
1: 当初の計画以上に進展している
神経幹細胞の非ゲノム制御について論文を出版することができた。また、次の論文についての準備も進めているところである。
今後は、神経幹細胞の運命転換におけるクロマチン構造・クロマチン相互作用の重要性についての検討を行う。Hi-C実験などから神経幹細胞の機能を制御するエンハンサーの同定を目指す。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
bioRxiv
巻: - ページ: 086330
10.1101/2020.05.14.086330
The FASEB Journal
巻: 36 ページ: e22662
10.1096/fj.202201002rr
巻: - ページ: 504704
10.1101/2022.08.22.504704