研究領域 | 細胞システムの自律周期とその変調が駆動する植物の発生 |
研究課題/領域番号 |
22H04717
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
五島 剛太 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (20447840)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞分枝 |
研究実績の概要 |
分枝、分岐は植物に限らず細胞壁を有する生物一般の代表的な成長様式の一つであり、しばしば周期性を示す。最近、ヒメツリガネゴケの原糸体の分枝形成に周期性を持たせる鍵分子候補を見出した。それは植物に固有の微小管系輸送モーター・ARKキネシンであった。ARKの変異により通常は細胞あたり一度に一つしかできない分枝が複数生じ、原糸体の分枝周期性が変調した。この表現型は微小管上の輸送活性を失ったARKの発現ではレスキューされなかったこと、また、分枝では微小管の配向が定まっていたことから、次のような仮説が立てられた。すなわち、「周期的な分枝形成の鍵は、ARKが分枝成長に必要な物質を運び続け他の場所への物質集積を防ぐことで分枝を一箇所だけに限定させることである。」本研究ではまず、ヒメツリガネゴケでこの仮説を検証する。具体的には、ARKキネシンにより何が運ばれることが周期的な分枝形成に必要なのかを突き止める。さらに、ヒメツリガネゴケで得られた知見が他の生物種でも保存されているのかを検証する。
初年度、ヒメツリガネゴケを用いた遺伝学的解析とライブ細胞観察により、ARKキネシンが多様な積荷(細胞核、葉緑体、ミトコンドリアなど)を輸送するトランスポーターであることを見出した。ARK変異体では細胞の極性化と成長に重要なアクチン制御分子RopGEF3およびRopGEF6の細胞先端蓄積に異常が生じた。さらに、RopGEF3の細胞先端への強制的な局在化によりARK変異体の成長異常は抑制された。すなわち、ARKによるアクチン制御因子輸送がヒメツリガネゴケ細胞の極性確立や成長に必要であることがわかった(Yoshida et al. in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた実験を進めて、結果をまとめた論文が公表されるに至ったため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、植物にもキネシンが複数の積荷に結合し長距離輸送する機構が存在することがわかった。また、動物や菌類ではすでに報告されていた微小管依存的輸送による細胞極性の制御が植物でも見られたことから、この機構の一般性が示唆された。一方で、植物がARKという独特なキネシンを用いる理由は未解明で、今後は他生物種での保存性にも着目した研究を展開したい。
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