研究領域 | 細胞システムの自律周期とその変調が駆動する植物の発生 |
研究課題/領域番号 |
22H04733
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
西浜 竜一 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 教授 (70283455)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 幹細胞 / 二叉分枝 / オーキシン / 細胞間コミュニケーション / ゼニゴケ / 転写因子 |
研究実績の概要 |
植物は周期的に幹細胞群を新たにつくり、枝分かれを行う。ゼニゴケは、葉状体の先端に存在する頂端幹細胞を周期的に増幅して二叉分枝を行う。植物ホルモンであるオーキシンへの応答性が、幹細胞ゾーンでは低く、その周辺では高いことが示唆されている。二叉分枝をする際には、低オーキシン応答性領域が二つに分断される、あるいは新たに低オーキシン応答性領域が形成されるのではないかとの仮説を立て、検証している。 そのために、これまでに同定した幹細胞ゾーンで特異的に発現する転写因子と、オーキシン応答に関わる転写因子を用いて、それらの標的を同定する実験を行った。その結果、幹細胞ゾーンとその周辺の細胞の間での、オーキシンを介したコミュニケーションと分泌性リガンド-受容体を介したコミュニケーションに関わる遺伝子が同定された。幹細胞ゾーンの形成や維持に関与することが強く示唆され、仮説の実証に向けて大きく前進した。今後は同定した分泌性リガンド-受容体の機能解析を行っていく。 上記の遺伝子について詳細な発現部位を解明するために、蛍光タンパク質レポーター株の作出を進めているとともに、様々なイメージング手法を検討している。二叉分枝における発現パターンを明らかにすることで、仮説の検証、実証を行う。 また、ゼニゴケの幹細胞ゾーンが低オーキシン応答性の領域であることを示す証拠をさらに強化するため、オーキシン応答を可視化するレポーター遺伝子の作成に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幹細胞ゾーンで特異的に発現する転写因子と、オーキシン応答に関わる転写因子の標的を同定する実験を行った。前者の標的は、その転写因子を誘導過剰発現した際に発現変動する遺伝子を探索することで行い、オーキシンの合成と排出、および幹細胞制御に関わることが報告されている遺伝子が候補として同定された。後者の標的は、転写因子の結合領域のCUT&RUN法を用いた同定と、オーキシン誘導性遺伝子のRNA-seqを用いた同定を組み合わせることで行い、オーキシンの排出や幹細胞制御に関わる遺伝子が同定された。両者で同定された幹細胞制御遺伝子は、ペプチドリガンドと受容体の対応関係にあるものが複数含まれていた。これらの結果から、幹細胞ゾーンとその周辺の細胞間では、オーキシンを介したコミュニケーションと、複数のペプチドリガンド-受容体シグナル伝達を介したコミュニケーションが、相互に依存する形で行われている可能性が考えられ、それが幹細胞ゾーンの形成や維持に関与することが示唆された。これは仮説を強く支持する結果であり、本研究課題の進展にとって大きな意義がある。 オーキシン応答を可視化するレポーター遺伝子として、オーキシンに強く応答し、上記の標的としても同定された遺伝子の発現調節領域を用いたコンストラクトを複数作成して検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
オーキシン応答レポーター遺伝子を完成させ、幹細胞ゾーンでのオーキシン応答性を明らかにする。シロイヌナズナなどでよく用いられているオーキシンレポーターについては、ゼニゴケでは機能しないとの情報があるが、念のため再度検討を行うことにした。さらに上記のオーキシン応答遺伝子をもとに作製したレポーターコンストラクトの機能性を調べ、改良を加えていく。 二叉分枝が起こるタイミングでの、幹細胞遺伝子とオーキシン関連遺伝子、さらにはオーキシンレポーターの時空間的な発現パターンを詳細に解析する。 同定したペプチドリガンド-受容体シグナル伝達について、遺伝学的解析およびイメージングを用いた解析を行い、分枝や幹細胞制御における機能を明らかにする。またこの経路の下流で制御を受ける遺伝子をRNA-seq解析により同定する。それにより、幹細胞ゾーンで低オーキシン応答性を実現する機構の手がかりを得る。 以上の結果をもとに、低オーキシン応答性と幹細胞制御の関係についての論文をまとめ、公表したいと考えている。
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