研究実績の概要 |
ヒメツリガネゴケ原糸体の頂端には、クロロネマ頂端幹細胞とカウロネマ頂端幹細胞の2種類の幹細胞が存在し、周期的に運命転換して入れ替わる。その周期性を駆動させる分子機構を明らかにするため、以下の実験を行なった。 ・オーキシン排出担体として機能する可能性が高いABCトランスポーターPGP19bは、オーキシン濃度に依存した細胞内局在変化を示す。このPGP19bの局在変化によりオーキシン濃度が変化し、頂端幹細胞の細胞運命が入れ替わると考えている。そこでオーキシン濃度に依存したPGP19bの細胞内局在制御機構を明らかにするため、近位依存性ビオチン標識法を用いてPGP19b結合因子を同定し、候補となる因子に蛍光タンパク質を融合させ細胞内局在を解析した。その結果、PGP19bと同様に、カウロネマ細胞の分裂面に局在していることが分かった。 ・ヒメツリガネゴケの頂端幹細胞の成長様式は先端成長であり、アクチンと低分子Gタンパク質ROPによって制御されている。そこでオーキシンセンサーラインを用いて、アクチンとROPに蛍光タンパク質をそれぞれ融合させた形質転換体を作製し、オーキシン濃度変化とアクチン骨格およびROPの細胞内局在変化の観察を開始した。 ・ABCトランスポーターの一つPpABCB14が、伸長している細胞膜上に局在することを発見した。また、PpABCB14遺伝子欠失変異体および過剰発現体では、それぞれ変形した細胞形状が観察され、細胞の異方成長が撹乱された。さらにPpABCB14遺伝子欠失体では、クチクラを構成するワックスとクチンが顕著に減少し、クチクラ層が消失あるいは減少していた。これらの結果から、PpABCB14がクチクラ形成に必要な何らかの因子を細胞外へと輸送し、細胞表面上クチクラ量を変化させることで、局所的に細胞を伸長させることが考えられた(Zhang et al., 2023)。
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