2023年度は、高度好熱菌 Thermus thermophilus HB27のX線自由電子レーザー(XFEL)イメージングに関する研究を中心に実施した。モデル生物のひとつであるT. thermophilusは、生化学実験にもとづき、1つの細胞に4つから5つの核様体がある倍数体細胞であると考えられてきた。本研究の目的は、XFELによってT. thermophilus HB27の内部構造をイメージングし、その倍数性を直接的に明らかにすることである。フェムト秒パルスのXFELをプローブとして用いれば、ダメージフリーで生細胞のナノスケールスナップショットが得られる。XFELイメージングの実施には、データ解析の要請で、プローブ径よりも小さな試料が求められる。通常のT. Thermophilus HB27の長さは4um程度で、日本のXFEL施設SACLAで利用できる集光ビームサイズと比較して大きいため、我々は細胞の長さを制御する新しい細胞培養方法を開発した。そして、スターチとカゼインが豊富な培地を利用することで、支配的な細胞の長さが2um程度になることを発見した。 XFEL実験では、本研究課題で開発を進めてきた溶液試料セルを用いた。SACLAに持ち込んだ半自動チップアライメント装置により、新しい方法で培養した細胞を溶液試料セルに封入し、孤立した細胞にXFELが照射した回折パターンを取得できた。そして、本データ解析用に改良したフーリエ反復アルゴリズムを回折パターンに適用することで、試料像を再構成した。再構成像には、電子密度が相対的に高いことを示す5つのイメージ強度ピークが存在し、これらは細胞内の核様体を反映していると考えられる。核様体の数はこれまでの定説と矛盾のないものであった。画像からは、それぞれの核様体がほとんどすき間なく、細胞の長さ方向に並んでいる様子が確認できた。
|